- 2020.12.14
こんにちは、デザイナーの岩田です。私たちA.C.O.はデザインコンサルティングファームとして、さまざまなクライアントやサービスのブランディングやリブランディングをお手伝いしています。では自社のブランディングはどうしているかというと、A.C.O.にはPlaybookと呼んでいる6つのバリュー(行動指針)があります。この言葉を社員ひとりひとりが選び、名刺にも入れるなど日頃から大切にしているのですが、今回はこのPlaybookをもっと浸透させるための施策のひとつである、「PLAYBOOK POSTER PROJECT」という活動をご紹介したいと思います。
6つのバリュー(行動指針)をPlaybookと呼んでいます
バリューを浸透させる施策「PLAYBOOK POSTER PROJECT」
「好きを、ふやそう」のAction!の取り組みのひとつ
この活動を始めるきっかけとなったのが、会社として掲げている目標(Company OKR)のひとつ、「好きを、ふやそう」のAction!でした。この目標には、インナーブランディングの強化が含まれています。これに貢献するべく、デザイン部発信で何かできないか考えたときに、マネージャーの沖山さんから「 何かクリエイティブなかたちで会社全体のプロジェクトにしたい」という話をいただきました。そこで、Playbookのバリューをテーマにしたポスターを各自が自由な表現で作り、会社の壁に飾るプロジェクトを考案しました。これまでこういった自由なアウトプットを作る機会がなかったので初めての試みですが、A.C.O.がクリエイティブな文化を強くしていくことには大賛成でした。なので、個人的に「みんなが楽しみながらPlaybookを考える機会を作る」という目標を立て、ポスタープロジェクトを推進することにしました。
プロジェクトの内容は,4月のA.C.O.JAMで発表し、社内からもいい取り組み、参加したいなど応援のメッセージをいただき、この時はプロジェクトが成功に向かうように思えました…。
コロナ禍でリモートワークへ移行
社内に公表したのはいいものの、残念なことにちょうど動き出そうというときに新型コロナウイルスが流行ってしまい、異例のフルリモートワーク期間が始まりました。もともと楽しみながら参加してほしいという意図があったため、参加者にはタスクのように重くとらえて欲しくありませんでした。なので声かけや動き出しをオフィスでささやかに始めようと思っていたことが災いして、結局なかなかスタートすることができませんでした。オフィスに行けないと印刷が試せないというハードルもあり、自分自身が制作を進めることさえどんどん後回しになってしまい、気づけば9月になってしまいました。
リモートで楽しみながら再始動させるために
このままではまずいと思い、後期の個人目標に再度「みんながPlaybookを自分ごと化できるようにする」を掲げました。少しニュアンスが変わったのは、バリューの言葉自体は会社に浸透してきたのですが、なかなかそれを自分ごとに置き換えることはできていないんじゃないか、と思ったためです。
それから周囲の人に相談し、
- 印刷はハードルが高いため、一旦オンラインで見られることを目標にする
- 全員が参加しているコミュニティを作り、会社を巻き込む
- 会議を設け進捗とモチベーションを管理する
などの方針を新しく考え、プロジェクトを再始動させることにしました。
SlackとNotionの活用
そもそもフルリモートの環境下では、自分が関わっていないコミュニティの動きは、見ることも感じることもできなくなってしまいます。そこでSlack、Notionを活用して、参加していない人でも「動きを感じる」工夫をしました。
Slackには#playbook_poster_teamというチャンネルがあり、社員全員が招待されています。このチャンネルではポスター制作者と私のやりとりと、完成したポスターのシェアが行われています。「次のミーティングは○日です」のようなちょっとしたお知らせは全社員に見える必要はないのですが、このチャンネルの存在で、制作者以外の人も普段からプロジェクトが動いていることを感じることができているはずです。
個人のアイデアメモやラフスケッチは、Notionのみんなの部屋(メモ)を利用してシェアしてもらっています。使い方は自由で、アイデアスケッチをする人もいればライティングをする人もいます。公開されていますがわざわざ見に行かないと見えない場所にあるため、制作途中でも安心して載せることができます。
ミーティングでのコミュニケーション
週1時間のミーティングでは上記のNotionやポスターのデータを見ながら、アイデアや表現のアドバイスを行いました。まずコロナ前に考えていた一人ずつ声をかけるスタイルではうまくいかないと思ったため、5〜7人くらいのメンバーをノミネートして、一度にミーティングに招待することで、みんなの様子を見ながら制作できる工夫も取り入れました。
アドバイスの内容として大切にしていたことは
- 選んだバリューをどう解釈しているか
- バリューと絵の関係がしっかり伝わるか
の2つでした。一番大事だと思っていたのは「その人がバリューを自分のことのように感じる」ことだったので、「なぜその言葉を選んだか?」「この絵でいうとどんなところがバリューに繋がるか?」というような質問をたくさんしていました。
難しかったところと良かったところ
難しかったところは、A.C.O.らしさがあるかという観点と、個人の作品として魅力的な表現かという観点のバランスでした。実はみんなの作品を見る前は、並んだときにちょっとA.C.O.らしくなるといいなと思っていたのですが、実際にラフを描いてもらったときには当然表現のばらつきがあり、これはコントロールしすぎないほうが面白いぞ、と思いました。とはいえ、A.C.O.らしさからは逸脱しすぎないようにチェックしていました。
良かったところはいくつかあります。
まずは、思っていたよりもミーティングが明るく楽しい雰囲気で、個人的にはリモートワークの味気なさが解消される課外活動のような時間になったことです。全員が主体的に参加でき、仕事以外の話で盛り上がれる時間はなかなか貴重な時間でした。
もう1つは、Playbookに長い時間向き合うことで、私自身もバリューを身近に感じることができた点です。長いリモートワークで会社への帰属意識が薄れてきていたように感じたこともあるのですが、PlaybookはA.C.O.を忘れそうなときにも「こういうことが大事だったんだよ」と再確認できる重要なものだということに気がつきました。改めて読んでみると本当に元気が出てくる言葉たちなので、これからも繰り返し見返したり唱えたりしていきたいと思います。
最後は、出来上がった作品にそれぞれ個性があり、デザイン会社として面白い人が揃っていると思える点です。クライアントワークではなかなか見られない制作者のオリジナルな作風が見られると、改めてクリエイティブだなぁと感じさせられ、こちらも創作意欲が湧いてきます。
これまで社内で公開されたポスターを紹介します
社内で公開されたポスターを、制作意図と一緒にご紹介したいと思います。
小林くん(コバ)
選んだValue Better together 一人でできることは、小さい
制作意図 A.C.O.には、昔から「ペア・ワーク」「ペア・テーブル」のように2人で何かに取り組むような文化があります。その名の通り2人でペアになって作業を行うという意味です。今回、その関係性について考えポスターをデザインしています。ペアの関係性…..1つの定義にまとめることは難しいですが、2人で何かに挑むときって、お互いの得意な部分が瞬間的に入れ替わっているな〜って思うんですよね。それを時間軸で俯瞰的に見ると生き物みたいに見えてきたので、ポスターではそんな感じを表現しています。コンセプトはこんな感じです。デザインに関してですが、細長いブロックと補色を使って2人(ペア)の関係性を表現しています。
小林-
作ってみて
A1サイズ&社内で全員が見るポスターなので見て楽しめる物を作成したかったのですが、ポスターを作成するのは人生で初めてだったので苦戦しました。一方で、自分の思考を抽象的な作品に落とし込む過程は楽しかったし、どんどん考え方を深めていくうちに今まで見えてこなかったBetter Togetherの意味も見つけることができたのは良かったです。
岩田-
Better togetherの解釈の中で、「ペアワークの関係」を表現してくれました。このポスターで表現しているペアワークは普段私も仕事の中で感じていて、自分とタイプが違う人と働くことの面白さが伝わってくるポスターだなと思いました。補色がかっこいいと社内でも好評でした。
紀平さん(きっペー)
選んだValue Better together 一人でできることは、小さい
制作意図 言葉から直感的に共闘を連想したので、それぞれの能力を最大限活かせば困難に立ち向かい打ち勝てる!という力強いメッセージを込めて、RPGによくある色々なジョブの仲間と協力して挑むボス戦をテーマにしました。みんな違う個性と得意分野を持っていて柔軟性があることを表現したかったので、小さな女の子が勇者でロボットが魔法使いだったりしてます。ボスはWeb Monstersがモチーフです!Jounalから探してみてください。 私自身が仕事上、人に相談したりディスカッションしながら進めるものが少なく「全て一人でやっている気」になってしまいがちなのですが、さまざまな人の協力のもと今の仕事が出来ているということを忘れずに感謝し、自分の能力を活かして誰かの助けになれるよう頑張りたいです。
紀平-
作ってみて
ごちゃごちゃした絵を描いてみたいと思い、とにかく手を動かすことに集中したのですが…画面の密度が上がるとどこに注目していいかわからない絵になってしまい、主人公たちが目立つよう配色や配置を調整するのに苦労しました。やりたいことができて楽しかったです。
岩田-
紀平さんはイラストが上手なのですが普段はバックオフィスの仕事をしており、デザイナーの小林くんとは違った視点でBetter togetherを表現してくれました。3人の戦士の後ろ姿を見せる構図がかっこいいです。社内でもアニメになりそう!と話題になりました。
藤川くん(ふじくん)
選んだValue Be brave 変化を楽しむ勇気を持つ
制作意図 “正しい角度” “(狭い範囲での)正確な形” “面積の変化” というメルカトル図法で描かれた地図の特質をモチーフとして、ポスターに落とし込みました。 地図って面白いんですよね。本来球体であるはずの地球を平面で表現するために色々な技法が開発されていて、それぞれ見え方も全然違って。 中でも、メルカトル図法で描かれた地図は、多くの人が“世界地図”として認識している地図になるんですが、それぞれの大陸の大きさが実際とは異なり、そしてそれが意図して“変えられている”ものだということをみなさん知ってましたか?
世界も会社もどんどん変わっていく。やったことがあるか、確実に成功するかどうかではなく、将来の可能性が広がる選択をする。変化することを恐れずハングリーに、楽しんでいこう。これはBe braveに付随する文章です。 当時のメルカトルの心境がどのようなものだったかはわかりませんが、少しの変化が500年後の将来に影響を与えた、可能性を広げたという意味で通ずるものを感じました。 500年とは言いませんが、僕も将来の可能性に希望を持ってデザインという行為に取り組んでいければなと思います。以下、ポスター内文章の和文です。
世界地図と聞いて、皆さんはどんな絵をイメージするだろう。おそらく、多くの人が”メルカトル図法”で描かれた地図を思い浮かべたのではないかと思う。利便性のために、あえて”面積を変化”させたこの地図は、デザインされてから約500年経ったいまでも多くの場所で使われ、世界地図の代表的存在として認知されている。メルカトルがこの地図をデザインした当時、こんな風に世界中の人に認知され、ましてや500年後にその特徴を使ってポスターを作る人が現れるなんて未来を想像していただろうか。何かを変えるという行為は正直面倒なことも多い。でも、ほんの少しの勇気で数年後、数十年後ひょっとすると500年後が思いもしない未来になっているかもしれない。そんな風に思うと、変わっていくことも悪くないかなと思えてくる。
藤川-
作ってみて
抽象的なものを、何を手掛かりに形に落とし込んでいくか、モチーフの具体的な特徴をいかにして抽象的に表現するか、みたいな頭の使い方は久しぶりだったので、楽しみながらできました。 バキバキに僕の好みで制作したのも久しぶりです。FormSwissとかみた人ならなんとなくわかるはず。。 なぜこのモチーフなのか?に直接的なわかりやすい理由があるわけではないので作文もしてみましたが正直そっちの方が大変でした。笑
岩田-
藤川くんはグラフィックを作る工程の中で一番好きなのはガイドラインをひくときだと知っていたので、グリッドを楽しんでいて藤川くんらしい絵ができたなぁと思いました。Be braveの解釈も歴史を感じる壮大で面白い切り口でした!
芳武くん(ヨシタケ、タケシ)
選んだValue Find your Superpower 自分にしかないものを見つけ、育てよう
制作意図
・それぞれの強みを探そう、見つけよう、育てよう
・自分の場所、らしさ
というキーワードから、以下のようなストーリーを作り、イメージを膨らませていきました。
「手には一粒の種、辺りを見まわすとそこには生命力溢れる豊かなジャングルが。鬱蒼と生茂る植物たちは全て小さな種から芽生え、たくましく育ち、やがて広大なジャングルとなる。 ー 自分が見つけたのは、なんの種だろう。どこまで大きくなれるだろう。」
種は自分のSuperpower、ジャングルは周りの人々や社会を暗示しています。 個々の「種」は初めは小さいかもしれないけれど、 やがてそれは自分の場所で育ち、雨風をしのぎながら、生命力溢れるジャングル(チームや会社、社会)を形成していきます。 それはいわば、積み重ねられてきた日々の時間や活動の跡であり、今の姿である理由です。 その中で、自分がどんな種を植え、どう育つのか。ジャングルはどう変わっていくのか。 そんなことを連想できるようなポスターになればいいなと思い、このような構図にしました。
芳武-
作ってみて
モノクロの表現で木々の生命感を出すのにはやや苦労しましたが、自分の描きたかった世界観を具現化できてよかったです。ちなみに、ジャングルと社会を重ね合わせるというアイデアは、昔見た夢から着想を得ています。今回、個人的な士気もあがり、改めて表現することの必要性を感じることができました。今後も、定期的に何かを表現し続けていきたいなと思います。
岩田-
物語が独創的で、緻密な書き込みとシンプルなキャラクターの対比が効いている、芳武くんにしか作れないポスターができました!「種を見つけたところ」を切り取ったストーリーが素晴らしいと社内でも人気でした。
渡邊さん(ゆりちゃん)
選んだValue Better together 一人でできることは、小さい
制作意図 Better Togetherという言葉から、A.C.O.の個性豊かなメンバーが集まり、その個性が重なったりパズルのピースのように組み合わさって一つの大きな模様になるシーンをイメージして制作しました。 ポスターの中の図形は大きかったり、小さかったり、角があったり、曲がっていたりと様々です。色々な形があるからこそ、お互いに足りない部分を補ったり、混ざりあったりすることでいろんな可能性が生まれているのだということを表現しています。 制作工程としては、温かみや揺らぎの要素を加えたかったので、一旦データで制作したものをプリントアウトしてペンでトレースし、それをスキャンして再度図形を組み合わせました(少し拡大すると線のゆらぎとかが見えると思います)。
渡邊-
作ってみて
このプロジェクトの説明をきいて、言葉とコンセプトはすぐに決まったのですが、抽象的だからこそ図形をどのような形にするのか、どのように配置するのかを決めていくのが難しかったです(でもとても楽しかった!そして毎週のposterミーティングも楽しかった)
岩田-
フォルムの面白さと独特なカラーから、渡邊さんのキャラクターが伝わってくるポスターを制作してくれました。手描きの線にこだわっているところもとても味わい深い作品なので、A1で印刷するのが楽しみです!
篠田さん(しののん)
選んだValue Love to think 考えることを好きでいよう
制作意図 考えることで日々成長する頭の中をテーマに、ポスターを制作しました。アイデアや感情、これまでの経験が頭の中で混ざり合う瞬間を視覚的な色とグラデーションを用いて表現しています。新しいものをつくる時や何かを成し遂げようと前進する時、理想としているものがあっても実際はうまくいかずにまた悩み、解決策を見出せず少しネガティブになる時間はありませんか?感覚的には前に進めず、とどまってしまっているようですが、この時間は、問いに向き合い、アイデアや感情、経験を混ぜたり引き離したりしている素晴らしい時間だと私は思っています。そんな「考えることを大切にしている時間(自分)」をこのポスターを見ることで少しでも意識してほしいと思いを込めています。考えや積み重なる経験が個人で異なるように、みなさんの感情やこれまでの経験をポスター内に当てはめて自分だけの頭の中を想像してみてください。
篠田-
作ってみて
アイデアや感情の変化を抽象的に表現することに苦戦しましたが、それぞれ異なる個人の頭の中を鮮やかに描くことができてよかったです。個人的にですが、このプロジェクトを通して考える時間に対する意識を見つめ直すことができたため、これまで以上に考える時間を有意義なものに感じられるようになりました。
岩田-
篠田さんは最年少ですが日頃からLove to thinkを実践しているような深い考察をする人なので、それがグラフィックとして表れてきたことがとても興味深かったです。社内でも「考えている時の孤独感がつたわる」と好評でした。
岩田(さきさき)
選んだValue Be brave 変化を楽しむ勇気を持つ
制作意図 これまでA.C.O.で働いてきて、チャレンジの機会をたくさんもらってきました。その中で自分自身が持っていた“自分の殻”のようなものを少しずつとっぱらう経験をさせてもらっている実感があって、私はこのバリューに思い入れがあります。 変化という言葉を“殻を破る”という行為に置き換えたのには理由があります。それは主体性が必要な“変化”を表現したかったからです。自分の力で変化するためにはものすごいエネルギーが必要です。内側に溜め込んだパワーを勇気を持って外に放つことで、それが少しでも周りの人に見える状態になると、だんだんと自分の見える世界も変わっていきます。このポスターではその楽しさを表現したかったので、弾ける幾何学形や自由なグラデーションを使って絵を作りました。
岩田-
作ってみて
普段クライアントワークをしすぎているせいで、いざ自由に作ろうと思ったときに「自分はなんて頭が固いんだろう」と気がつき、へこみました。笑
一方で最初に決めたテーマを変えないで信じるという部分はアートディレクションをするときの忍耐と通づるところがあって、逃げずに向き合って完成させることができて嬉しかったです。
こんなときだからこそやってよかった
今回はA.C.O.のブランディングの中からPLAYBOOK POSTER PROJECTを紹介しました。
正直スタートする前は、会社の勤務時間を使って制作をしてもらうことにプレッシャーもあったのですが、こうやって完成したポスターを並べてみると、やってよかったなという気持ちでいっぱいです。グラフィックデザインのパワーを再認識し、自由な発想からは元気をもらうことができました。
A.C.O.はこれからもデザイン会社としてより高い価値を提供できるよう、あらゆる形でブランディングに取り組んでいきます。次の記事もお楽しみに。
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by Saki Iwata
武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。制作会社にてランディングサイトやコーポレートサイトなどのデザインを経て現在に至る。デザイン担当。デザイン部所属。
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