- 2024.08.09
※本記事は2024年2月に取材したものです。
米OpenAI社が開発・提供する「ChatGPT」をはじめ、生成AIの登場はあらゆるビジネスのプロセスに大きな変化をもたらしました。では、私達はどのように生成AIに向き合い、扱っていくのが良いのでしょうか?今回は、生成AIを用いたワークショップなども組み込まれた「次世代新規事業支援パッケージ」を主導するモンスターラボのエンジニアとデザイナーが、生成AI活用のプロセスやそのポイントについてお話しします。
プロフィール紹介
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伊志嶺 朝輝
大学にて画像処理&AIの研究で修士号を取得後、SIerにてSE兼データアナリストとして働く。コンサル会社にてテックリードエンジニアを経験したのち、2022年にモンスターラボ入社。2023年からはGPT関連のプロジェクトにてビジネスデザイナー、データアナリスト、テックリードエンジニアを兼任している。
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天野 一記
大学卒業後、Webや広告業界でアートディレクターとして働く。自社事業の担当としてサービス開発から携わるようになり、「UX」領域へ。近年はクライアントの新規事業創出や、サービス、プロダクト開発などに従事。HCD-net認定人間中心設計専門家。
大量のアイデアを網羅的に考え尽くせる生成AIワークショップ
ーまずはじめに、お二人の専門領域と生成AIとの関わりについて教えてください。
天野 新規事業やプロダクトのユーザーリサーチ、コンセプトづくりなど体験領域を中心に手がけるほか、「デザインやユーザー中心のモノづくりのスキルを身につけたい」というお客さまへの伴走支援などを行っています。AI自体は興味があってずっと様子をうかがっていたのですが、ここ最近の生成AIブームで色々試すようになり、ChatGPT(米OpenAI社が開発・提供する対話型AIチャットサービス)が登場してからは業務でも活用しています。
伊志嶺 業務改善や新規事業企画などのプロジェクトを中心に、データアナリスト、テックリード、ビジネスデザイナーといった役割で参画しています。もともと大学時代にAIに関して研究していたこともあり、GPT(米OpenAI社が開発した、自然な文章を生成できる言語モデル)を組み込んだ提案を行ったり、PoC(技術検証)などにも精力的に取り組んでいます。
ー生成AIを用いたワークショップの企画は、どのように立ち上がったのでしょうか?
天野 弊社では企業の新規事業を支援することも多いのですが、その手法をパッケージ化できないかと考えたのが始まりです。新規事業はリリースしてからが本番で、それまではできるだけ低コスト・短期間で成功確率を上げることが求められます。アイデアを十分な方向性で考え尽くした上でリリースに臨めるように何かいい方法を提供できないかと考える中で、生成AIを活用するアイデアに辿りつきました。
ーワークショップはどのような流れで行うのでしょうか?
天野 ChatGPTを用いて事業やサービスなどに関する調査・企画、アイデア出し、そして評価・検証を行っていきます。
天野 ポイントは、網羅性高く大量のアイデアを短期間で考え尽くせることです。お客さまに伴走しながら一緒にアイデアを考え、それらを客観的に評価する部分も支援しています。
ーどのようにアイデアの網羅性を担保しているのでしょうか?
天野 まずは自社の持っているアセットやミッション・ビジョンなどの考え方、ブランドイメージなどのデータを「OWN」、PEST(マクロ環境分析のフレームワーク)により導き出した社会動向や技術の潮流などのデータを「MATERIAL」と呼び、これらのデータを用意してインプットを行います。
重要なのは、それらにユーザー視点を掛け合わせることです。 前述の二つのデータに加え、私たちモンスターラボの専任チームがターゲットとなるユーザーのセグメントや求める体験などを「UX」のデータとして作成し、様々ななアイデアの出し方・考え方と「SHAKE=掛け合わせ」 すことで、網羅的に大量のアイデアを出力することを実現しました。
ちなみにそれぞれのデータには、年代設定が存在します。20年、30年先のことを考えたい場合も、数年後に使えるアイデアがほしい場合も、それぞれの年代設定における社会状況やテクノロジーなどの予測情報を抽出するように設計しています。
これらのデータを掛け合わせることで、網羅的に大量のアイデアを出力することを実現しました。
良いアイデアを生み出す方法、良いアイデアを見極める方法
ー新規性のあるアイデアなど良いアウトプットを得るためにポイントとなるのは、やはり入力するデータの量や質なのでしょうか?
伊志嶺 ポイントとなるのは、入力するデータよりも「プロンプトエンジニアリング」です。プロンプトエンジニアリングとは、生成AIから望ましい出力を得るために命令(プロンプト)を設計、最適化するスキルのこと。新規性は人間にしか造れないものなので、プロンプトの設計によってChatGPTを人間のように動かすことが重要なポイントです。そこには、企業に合わせたアセットやユーザー像を用意することも含まれます。
データが重要性を発揮するのは、どちらかというとアイデアを評価する段階です。さまざまなデータを予め蓄積しておくことで、評価をより良い形で行うことができます。その上で、アイデアと評価データを紐づけて残しておくことも大切です。後で同じようなサービスや事業をやりたいという声が上がった時にも再利用できますし、ソリューションに関しても技術検証を何度も行わずに済みますからね。
ーアイデアの評価はどのように行っているのでしょうか?
天野 直近実施した案件では、「人の力」で処理することにしました。GPTに行わせるには判断軸を学習させる必要があるため、そこにかかる時間やコストなどを鑑みて対応しました。
伊志嶺 やはりいくら大量のアイデアが生み出されても、現状それをチェックできるのは人間だけです。GPTが評価の高いものや目的にあったものだけを抽出できるようにならないと、すぐに頭打ちになるのは見えているものの、判断軸を学習させるには非常に高いハードルがあります。GPTはテキストでしか物事を理解できないので、どういうアイデアを評価するのかを伝えるのがとても難しいのです。
このハードルをクリアするためには、「これはいいアイデア」「これは悪いアイデア」などと人がラベル付けを行い、それを学習させていくファインチューニングと呼ばれる方法を用いて、言語化されていない判断軸を覚えさせていく必要があります。
このような評価の学習を試みたプロジェクトの事例として、「事故報告書の活用プロジェクト」があります。このプロジェクトでは、入力された事故報告書の内容からAIが深刻度などを自動で評価してタグ付けし、蓄積した情報から再発防止チェックリストを作成したり、類似事故が起きた時の対応に活かしたりするということをしました。自動で評価のタグ付けを行うことで、求めているものをアウトプットできるようになっていく仕組みを作りました。
ー評価には定量的に数値として評価できるものと、「危ない」「怖い」など感情に紐づいた定性的な評価があると思います。そのどちらも学習可能なのでしょうか?
伊志嶺 実はそこが非常におもしろい部分で、GPTを使えば定性評価も疑似的に定量評価として扱うことができるようになります。
今までそれができなかったのは、評価者が複数人いたり、同じ人でもその時の感情や順番などが影響することで、評価にブレが生じてしまっていたからです。しかしGPTであれば、常に同じ状態で同じモデルが評価を行うため、ある意味でその結果は定量的なものになっていきます。さらに相対的な評価を大量にこなすことで、判断の指標も安定し、データが増えれば増えるほど評価の精度もあがっていきます。
事故報告書の活用プロジェクトでも、深刻度など人によって差が出やすいものをひとつのモデルで一元的に評価することで、結果的にアウトプットが定量的なものになっていく点を評価いただきました。
プロンプトエンジニアリングを駆使して、人間のようにChatGPTを動かそう
ー昨今急速な発展を遂げ、テキスト、画像、映像とさまざまな分野での活用が広がっている生成AIですが、その本質を理解するには何を知っておくべきだと思いますか?
伊志嶺 GPTの登場による最も大きな変化・影響は、これまで人にしかできなかったことがシステム化できるようになったことだと思います。論理的に考えて結論を出す、文章を理解する、文章を作成してユーザーと会話するといった行為は今まで人にしかできないことだと考えられており、仕組み化できていなかった分野が多数ありました。
しかし、GPTの登場により、24時間人が対応しているかのようなシステムを作ることが可能となりました。とても画期的なことであり、それこそGPTがゲームチェンジャーと呼ばれる所以です。システム開発を担うエンジニアとしては、UXについて改めて考えないといけないなと感じる一方、提案できる幅が広がったことにはおもしろみを感じています。
ーアイデアを生み出すという観点ではいかがですか?GPTには得意・不得意などはあるのでしょうか?
伊志嶺 GPTの最も大きな強みは、アイデアを大量に生み出せること、そしてそれをバイアスをかけずにできることだと考えています。新規性については弱点ではありますが、その点も大量に生み出し評価することでカバーできるものと考えています。1,000のアイデアがあればひとつぐらいいいものがあるはずなので、物量で押し切るというところでしょうか(笑)。GPTが人間のアシストをするような位置づけにすれば、新しいアイデアを生み出すという目的においても非常に有用な使い方ができると思います。
ーGPTを成長させるコツなどはあるのでしょうか?
伊志嶺 ひとつは特化させるということです。人間は返信メールひとつにしても、業務に関する知識のほかに社内のルールや相手の状況への配慮など、さまざまな要素を考慮して作成しています。つまりGPTに返信メールを作らせるためには、そういった前提となる要素を明確に言語化して入力する必要があり、その領域や業務内容に特化させないといけないのです。僕は「ビジネスで使える画像生成」「アイデアマン」などそれぞれの場面に特化したGPTをいくつも作り、業務で活用しています。
では反対に、人間がGPTを使うにあたってどのような成長が必要かというと、言語化が得意になることだと思います。結局、明確に言語化しなければGPTも何をすればいいのかわかりません。現状はもともと言語化が得意な人がGPTを使いこなすという二極化が進んでいますが、言語化を楽にするために必要なプロンプトエンジニアリングのスキルについてはたくさんの方が発信しているので、是非そういったものを活用して言語化を頑張ってみることがおすすめです。
ーデザイナーとしてはGPTとどう向き合い、どう扱っていくのが良いでしょうか?
天野 ChatGPTの場合、ある程度きちんとしたプロンプトを入力しないと思った通りの答えが出てこないケースも多いので、プロンプトエンジニアリングについてはデザイナーも学んでおくべきだと思います。アウトプットの精度が低いと感じる場合、読み込ませたデータかプロンプトのどちらかに問題があることがほとんどです。世の中に既にあるアイデアをそのまま入力してもだめで、社会課題とユーザーを掛け合わせて出力させるなどの工夫が必要です。そういった特性さえ知っておけば、新人アシスタントのように活用することができるはずです。
また先ほどバイアスがかからないという話がありましたが、自分たちが考えつかないようなアイデアを出すために、わざとバイアスをかけることも有用です。「あなたがテスラの社員なら?」「あなたが主婦なら?」などのバイアスを与えてアイデアを出してもらうことで、自分の思考の枠、会社の枠を越えたアイデアの創出へとつなげていけると考えています。
このバイアスを与えてアイデアを出す仕組みはとても有用だと思ったので、昨年10月頃にメンバーにお願いして作ってもらいました。 また、GPTsがリリースされた際にも、数日で伊志嶺さんが「アイデアマン」というプログラムを立ち上げてくれたり、とにかくスピード感持って必要と思うものを作っていける時代だと感じました。 文系デザイナーも諦めずに、時にいろんな人の協力を仰いで動くのがいいかなと思います。
猛スピードで発達する生成AI。あなたならどう使っていく?
ー生成AIに関する世の中のトレンドは、現在どのような状況なのでしょうか?
伊志嶺 世の中のトレンドはOpenAIがものすごいスピードで塗り変えていっており、2週間後には大きく変わっているような状況です。1月中旬に先ほどの言語化に関する記事を書いたのですが、それを解決する技術がその1週間後に発表されていました。動画生成AIとしてOpenAIが発表した「Sora」に関しても、今までの動画生成AIは何だったんだと思うほど、数年先を進んでいるかのような技術が現実になっています。今何か話したとしても、記事が出る頃には変わっていることでしょう(笑)。
ーありがとうございます。最後に、今後お2人が生成AIを活用してどのようなことをやっていきたいか教えてください!
天野 いくつかあるのですが、まずは誰でもアイデア出しや試算を精度高くできるようになり、その上である程度のことはどんどん自動化・効率化して、別のことに時間を割けるようになるといいですね。資本主義的視点だけでなく、文化的価値や地球環境の視点に立って施策を考えることに頭を使ったり、空いた時間で家族を大切にして暮せるようなところまで繋げていけると良いなと考えています。
伊志嶺 個人的には、小説家AIを作りたいと考えています。自分好みの小説をいくらでも書いてくれるようなAIを、時間がかかっても作ってみたいですね。
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by Monstarlab Design Journal
Monstarlab Design Journal 編集部です。 モンスターラボデザインチームのデザインナレッジとカルチャーを発信していきます。
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