- 2017.04.24
ワークショップを横展開するためのコツを探る
こんにちは、エクスペリエンスデザイナーの渡邊です。近年、ワークショップの手法を活用した商品開発や組織変革、人材育成の取り組みが注目されています。しかし、いざワークショップを社内に導入しようと思っても、ワークショップの設計方法がわからなかったり、全社共通でワークショップを行いたいのに、部署ごとの事情や、社内体制など課題を抱えている企業が見受けられます。
これらの課題を解決するために考えたいのが、ワークショップのフレームワークづくりと、ワークショップのファシリテーターを育て、共通のワークショップを広範囲で行うための「ファシリテーター向けワークショップ」です。
フレームワークづくりと、ファシリテーター向けのワークショップ、この2つを実践し、成功した具体例には、どのようなものがあるのでしょうか。今回は、お台場にある日本科学未来館(以下・未来館)で行われた「Picture Happiness on Earth」プロジェクトのワークショップを例に方法論を探っていきたいと思います。
幸せについて考えたシナリオを元に映像作品をつくる「Picture Happiness on Earth」
本プロジェクトは、一人ひとりが自分と地球上のあらゆるものとの「つながり」に目を向けながら、地球の持続性に関する理解を深め、将来のビジョンをともに模索する「つながりプロジェクト」の一環として行われた企画です。
「幸せってなんだろう?」をテーマに、アジア・太平洋地域の中高生と、日本の女子中高生がコラボレーションし、日本科学未来館の地球ディスプレイ「ジオ・コスモス」に映し出す映像作品をつくりあげます。
まず、プロジェクトの第一段階で、アジア太平洋地域6カ国(オーストラリア、中国、日本、マレーシア、フィリピン、そしてシンガポール)の科学館と連携し、各国で『幸せ』をテーマにしたワークショップを開催。そのワークショップで幸せについて考えたシナリオを作成し、国ごとに投票を行い、その国を代表する優秀シナリオを決定します。 プロジェクトの第二段階では、投票で決まった各国の優秀シナリオを、日本の女子中高生が映像作品に落とし込みます。2016年夏に行われたワークショップには、プログラミングやデザインなどに関心のある子を中心に、約90名の女子中高生が参加。1チーム15名で、ディレクター、デザイナー、プログラマーと役割を分担し、映像制作に取り組みました。最終的に、彼女らが制作した映像作品を、未来館にある地球ディスプレイ「ジオ・コスモス」にて映像作品として展示しました。
「Picture Happiness on Earth」特設サイトには、アジア太平洋地域6カ国のシナリオとワークショップ内で作成された映像作品が掲載されています。
A.C.O.では、「Picture Happiness on Earth」特設サイトの制作を担当。特設サイトのアートディレクション、設計、プロジェクトマネジメント、コーディングを行いました。ワークショップそのものには関わっていないものの、アジア太平洋地域6カ国で開催したワークショップから出てきたシナリオのリストや、シナリオを元に日本の女子中高生が作成した映像を、Webを通して広げるお手伝いをしています。
幸せを個人から国へと拡張して考える「フレームワーク」
プロジェクトの第一段階では、6カ国の科学館で各国の中高生が参加するワークショップを行い、中高生がそれぞれの「幸せ」を考えたシナリオをアウトプットし、投票。ひとつのシナリオを選出しています。
同じアジア太平洋地域とはいえ、使用する言語や抱える課題、事情も異なる6カ国で、なぜ共通のワークショップを行うことができたのでしょうか。しかも、それを共通の「シナリオ」という形式に落とし込むためには、どのような工夫があったのでしょうか。各国共通でワークショップを行うために重要だったのは、フレームワークづくりです。 未来館では、個人の幸せから家族・友達の幸せ、地域の幸せ、国の幸せとその範囲を拡張し、「幸せ」についてのシナリオを作るワークショップのフレームワークを独自に開発しました。
フレームワーク作成にあたり重要視したのは、「地球規模の課題をどうすれば自分事として捉えられるのか」という点です。まずは、身近な幸せを想像し、そのパイをどんどん大きくすることで、俯瞰的視点を獲得できるような設計をしました。具体的には、次の2つのステップでワークショップを実施しました。
「個人の幸せを考えるチャートワークシート」
最初のステップでは、「幸せチャート」を使用し、自分が何に幸せを感じるかを考えるワークを行いました。まず、下記のシートの空欄に「自分は何に幸せを感じるのか」を記入します。
そして豆を1人あたり30粒配り、その豆を自分の幸せの感じ方に合わせてワークシートの該当箇所に配分します。例えば、「to be healthy(健康であること)」に幸せを強く感じるのなら、30粒の中から10粒をそこに配分するといった具合に。豆の配分が終わった後、テープのりで豆を貼り付けます。このワークを通じて、自分がどのような項目に幸せを感じるのかを可視化しました。
「Expanding Happiness」
続いて、第2ステップです。最初のステップで可視化した「自分が幸せを感じる要素」について、その幸せの範囲を家族・友達、地域、国と拡張してマッピングしていきます。
この2ステップで構成されたフレームワークを活用すれば、自分を起点に、家族・友達の幸せ、地域の幸せ、国の幸せと、その範囲を自然に拡張していくことができます。自分に対して「国」を身近に感じることは難しいですが、段階を踏んでいくことで、国の幸せを自分ごと化できるように設計されています。
この手法を応用すると、どのようなワークショップが可能になるでしょうか。具体的には次の2つのワークが可能になると考えています。
1つ目は、企業の価値の拡張です。現在自社が提供しているものは、個人にとってどのような価値があるのか。その影響範囲を拡張し、地域、国、グローバルと広げていくことで、企業の世界規模での価値提供のあり方が見えてくるかもしれません。
2つ目は、チームの目標の拡張です。プロジェクトにおける個人の目標を考え、それを会社の目標、国の目標、世界の目標と拡張していくことで、チームで目標の粒度をすり合わせることが容易になります。チームに所属する個々人の目標の粒度が揃えば、チームビルディングをより簡単に行える可能性があると考えます。
エデュケーターのためのワークショップでクオリティを担保する
ワークショップのフレームワークを決めるだけでは、言語の異なる6カ国で同じ粒度のシナリオを出すことはまだ難しいです。各国の科学館では、本プロジェクトのワークショップに担当のエデュケーターがつきました。そして、自国でワークショップを行う前に、エデュケーターを未来館に集め、事前にワークショップを行いました。エデュケーターのためのワークショップが、本プロジェクトの成功のもうひとつの鍵となっています。
未来館が作成したワークショップ・プログラムをアジア太平洋地域の6カ国のエデュケーターが体験する際に、どのような点を意識してワークショップを設計したのでしょうか。
未来館が行ったのは、共通のワークショップ・マニュアルの作成です。このマニュアルに則って、アジア太平洋地域の6カ国のエデュケーターに、ワークショップを一から時間をかけて体験してもらいました。 このマニュアルには、所要時間、準備するもの、ワークシートフォーマットなど様々な要素を整理して記載。統一マニュアルがあることで、各科学館のワークショップである程度統一されたシナリオを出すことに成功しました。
未来館のスタッフがアジア太平洋地域の6カ国の科学館を訪問し、ワークショップを行わなかったのはなぜでしょうか。やはり、その国のことを一番理解しているのは、その国に住む人々。自国の科学館のエデュケーターがワークショップのファシリテーションを行うことで、その国のリアルなシナリオを描き出すことに、一役買ったと言えるでしょう。
続いて、未来館で映像制作のワークショップを行う際に、どのような工夫があったのでしょうか。アジア太平洋地域の6カ国からシナリオが1案ずつ未来館に届き、そのシナリオをもとに映像化を行いました。その際に、未来館のエデュケーターが1チームに1人付きました。 未来館のエデュケーターは、シナリオを元にした絵コンテブレストのファシリテーション、ディレクター・デザイナー・プログラマー役のとりまとめや指導などを担当。このチームビルディングから、意見のまとめ、作品として立ち上げる行程など、ワークショップにおける主要工程において、中高生を指導しながら進めました。
ワークショップを仕組み化し、さまざまな課題解決に応用する
「Picture Happiness on Earth」プロジェクトを通し、ワークショップを成功させる秘訣は冒頭でもお話ししたように2つに集約されるのではないかと考えています。1つはフレームワーク作り、もう1つはファシリテーター向けのワークショップです。
今回のプロジェクトで使われた、個人を起点に、家族・友達、地域、国への拡張するフレームワークはシンプルであるにも関わらず、国の幸せを自分事化できる仕組みになっています。このように徐々に物事の影響範囲を拡張していく考え方は、「幸せ」以外の要素でも応用させることができるでしょう。たとえば会社であれば、個人を起点に、部署、企業、社会と影響範囲を拡張することで自分がすべき行動、提供すべき価値を俯瞰して考えることが可能です。
また、同じ内容のワークショップを部署や会社を横断して開催する場合などには、ファシリテーターを開催前に集め、ファシリテーター向けのワークショップを事前に行うことで、より広い範囲で共通のワークショップの実施に繋げることができるでしょう。ワークショップ自体の横展開を通して異分野感での差異を感じ、新たな気づきを得るきっかけ作りや近年注目を集める「共創」手法として提供することも可能です。
今回、特設サイトの制作に携わらせて頂いた日本科学未来館では、2015年~2016年に行われた第1回目の「Picture Happiness on Earth 2015-16」に続き、「Picture Happiness on Earth 2016-17」がスタートしています。オーストラリア、日本、韓国、ニュージーランド、台湾、そしてタイと、アジア太平洋地域の6つの科学館が新たに本プロジェクトに参加します。オーストラリアと日本以外の国が、今回は初参加です。今年はどのようなシナリオが登場し、それがどのような映像表現に落とし込まれるのか、昨年との違いに注目しつつ、期待したいと思います。
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A.C.O.では、2017年1月にUX/IA部をつくりました。ユーザー体験の向上にはワークショップを取り入れるシーンも多く出てきます。ワークショップは目的に合わせて様々な方法があり、プロジェクト毎の課題に合わせて考える必要があります。 0から設計するだけでなく、既存の事例を応用することで効率化を図っています。
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by Natsu Kawakita
静岡大学情報学部卒業。情報科学芸術大学院大学(IAMAS) メディア表現研究科修士課程修了。作品制作・展示活動、広告制作会社勤務を経て、現在に至る。UXデザイン、情報設計担当。UX/IA部マネージャー。
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