- 2018.08.27
現在12カ国21都市に自社拠点を設置し、グローバル展開を加速させているデジタル・プロダクト開発組織のMonstar Lab。最近ではデンマークのNodes社やデザイン領域を担うパートナーとして私たちA.C.O.ともM&Aを実現したのは、すでにご報告した通りです。
個性的なタレントを数多く有し、ユニークな集団を構築しているのが代表の鮄川宏樹さん。1年の約2/3は世界各地へ出向き、自らをIT商社と名乗り勢力的に動き続ける自身。前編ではアメリカ、ヨーロッパ、アジアの実情を語っていただきましたが、今回は私たちの拠点である日本について。俯瞰的な視点から見えてくる、日本・東京のいまの姿とは?
前回の記事:【前編】日本の社長は海外にいた方がいい。1年の2/3海外にいるMonstar Lab代表 鮄川の世界視点
Guest
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Hiroki Inagawa
鮄川 宏樹:株式会社モンスター・ラボ 代表取締役 CEO・1999年プライスウォ—ターハウス(現IBM)に入社し、IT・経営コンサルティング業務に従事。2000年11月、テクノロジーによって社会を変えていくインターネットの世界に魅せられ、当時日本でオブジェクト指向技術の先駆けであったベンチャー企業株式会社イーシー・ワンに入社。2003年には会社内最年少マネージャーとしてJASDAQ上場を体験。2006年豪州Bond UniversityのMBAプログラム受講を経て、これまでの集大成となるビジネスプランを事業化し、2月に株式会社モンスター・ラボ設立と同時に代表取締役就任。2014年にグローバルソーシング・プラットフォームのセカイラボを開始し、現在は、12カ国21都市に自社拠点を展開。
競争が少ない、日本というマーケット
--日頃から世界中を飛び回っていると、俯瞰的に日本を見ることができるのではないかと思います。日本や東京は、鮄川さんの目にどんな風に映っていますか?
今は国単位ではなく、都市やメトロポリスといった大都市圏みたいなものがマーケット単位になってきている印象です。中国もアメリカも国が大きすぎるので、都市ごとに異なる商圏がありますよね。そういう意味でいうと、日本は大国ではあるものの東京一極集中。個人的には、こんなに仕事しやすい場所はないです。お客さんもいるし、マーケットは大きいし、競争が少ないですから。
--競争は少ないですか?
少ないです。例えば、アメリカ西海岸で仕事を受注したければ、インド、ウクライナ、南米など、アメリカのマーケットをメインにしている会社と競合になり価格競争も激しくなります。日本の場合は、そもそも日本語が話せないと仕事できないですし、ほとんどの大企業がヘッドクォーターを東京に集中させている。つまり、他国との競争が生まれていなくて、正直ぬるいです。
--ぬるい、というのは良い意味ですか?
仕事するには良いです。でも逆に、前編でも話したように、大国は自国のマーケットが大きいので、国外に出ていこうとする人たちが少ない。さらに、中長期的に見ると東京も人口が減っていきます。今までは、地方から人が集まっていたので増えていく傾向にありましたが、地方の人口が減っている今の状況からすると、必然的に東京の人口も減っていきます。だから、緩やかに衰退していくはず。今のところはまだマーケットが大きくて競争がぬるいので、みんな国外には行かないですが。
--前編で語られたロジックが、ここでつながりますね。
そうですね。それと、日本は物価が高いというイメージがありましたが、ロンドンやコペンハーゲンと比べると安くなっていますし、円の力が相対的に下がっています。もちろん輸出産業にとってはそのほうがいいとはいえ、国力という意味では安い国になってきていることを強く感じます。アメリカ、イギリス、北欧など比べると、本当に物価が安い。タクシーの料金だけは、世界一高いですけど(笑)。
--もしかしたら、北欧からすると東京はオフショア圏として捉えられている部分もあるのでしょうか?
いえ。英語も通じないし、タイムゾーンもあるので。しかも、生産性に対する考え方が全く違います。日本人は、長時間働いてクオリティを上げるという考え方です。しかし、デンマークなど北欧では、時間当たりの生産性に対する意識が非常に高くて、1分たりとも無駄なことしたくないというメンタリティを持っています。
--仕事以外でも、そういう感覚があるのでしょうか?
Nodesがデンマーク政府のAppを作ったのですが、デンマーク人のほとんどの人がダウンロードしています。例えば、モバイル端末だけで結婚も離婚も10分でできたりして。そういう国民性なんでしょうかね。
デンマークの教育にヒントがある
--仕事における生産性の高さ、それは日本でも取り入れられますか?
おそらく教育の違いがあるので、もし実現するならば根本的に考え方を変える必要があると思います。それに加えて、クライアントへの請求単価は全て時間単位というのがあります。時間単価は高いけど、生産性もすごく高い。みんな9時に出社して、ランチも30分で済まして、17時半に帰って家族と一緒に過ごします。ですから、ほぼ義務に近い感覚で、オフィスビルに食堂が設置されていますし、デスクも昇降式だったりします。それもほぼ法律に近いぐらい、みんなが当たり前に導入しています。
--スタンディングで仕事ができますね。
立ったり座ったりといった身体的な健康対策で取り入れているだけでなく、個人の生産性を高めるためのアイデアだったりもします。1時間当たり、1分当たりのパフォーマンスを、どうすれば最大限発揮できるかという意識ですね。
--そのようなオフィス環境の施策というのは、何かしらの危機感から来ているものですか?
詳しくは分からないですが、そもそもの教育が影響しているような気もしています。それは、自分で問題設定して考えるという教育です。ただそれは、決してデンマークだけの話ではなく、近年ではデンマークから日本も学べ、といった風潮は少なからず生まれていますよね。
--文化的な面で、生産性に対する考え方が影響していることがありますか?
オンとオフのメリハリがしっかりあって、最も大切なのは家族との時間なので、必ずバケーションは取ります。そういうこともあって、年間の売り上げを見ると7月と12月は絶対に赤字です。その代わりに、他の月でしっかり稼ぐ。そもそもの予算設定が、最初からそのように組まれています。
--それはクライアントにとっても良いことでしょうか?
そうですね。少人数かつスピーディーに、しかもクオリティが高いほうがいいという理解です。
--ポジティブなことが多いやり方だと思いますが、実際に同じようにやろうとすると弊害も多くて、やっぱり無理だとなる可能性もありますよね。実際、どう感じていますか?
それでも、やはり学ばないといけないといけないことは、かなり多いと思っています。マネジメントのミーティングでも、発言をしない人がいると「その人は本当に要るのか?」と真面目に言われてしまいます。
--つまりそれは生産性の向上につながるのか? ということですね。
はい。ミーティングに貢献していない人は要らない、なぜなら、結果的にそれはチームの生産性が低下するからということです。それだけじゃなく、沈黙が続いたりすると「ファシリテーターはどうなっているの?」と言われます。結構、緊張感ありますよ。
--そうせざるを得ない理由、みたいなものがあるのでしょうか?
本当に無駄なことをしたくない、というマインドが高いからでしょうね。 たまに、そんなに生産性のことばかり気にしないで、もう少し緩くやろうよ、と思うこともありますけど(笑)。全部が良いとは思わないですが、とはいえ学べるところはかなりあります。
日本の社長は海外にいた方がいい
--働き方改革などの影響もあり、日本もようやく変わりつつあります。2011年頃からA.C.O.でも、自分たち社内用としてだけじゃなく、パートナーやクライアントに対してオンライン会議などを提案してきました。
今では当たり前のように、みんな取り入れていますよね。
--その当時は、世の中的にほとんど導入されていませんでしたが、オンライン会議やリモートワークの恩恵を自ら体験していました。なので、クライアントには「打ち合わせの移動時間が山手線60周分で、トータル400時間になるので、その分を請求します」というプレゼンをして、オンライン会議を承諾してもらいました。とにかく、タイムチャージをどうやって当たり前に推奨するか、というのがミッションだとも思っています。
それは本当に大事なので、非常に良いことだと思います。そういえば、日本に帰ってくると、いろいろな人から「ご挨拶にお伺いしたいのですが」というアポイントメントが結構あるんです。デンマークであれば、10分単位でアジェンダを作って送らないと「何のためにこの時間を取るのか?」と言われかねないのですが……。
--ご挨拶されても……、というか。
ご挨拶をしたい気持ちはありますが、リモートではダメなのだろうか? とは思いますよね。
--それも、みんながやり出したら大丈夫になると思います。
そうですね。だから、社長は海外に行ったほうがいいと思います。そうしたら、仕方がないからリモートで済まそうとなりますから(笑)。
--遠くにいるほうがいいですね。イギリスの拠点で3年間くらい業務していたときは、特に大きな問題は起きませんでした。
そうなんですね。
--大手クライアントの案件も、キングストンからSkypeでプレゼンをして、その映像を社内クライアントの社内向けのYouTubeへアップするんです。つまり、社内でその動画を広めるために。実際、日に日に視聴回数が上がっていきました。生産性の話とは少し違いますが、やり方を工夫することでサプライズやインパクトを生み出せますよね。
どうしても採用したい人と飲みに行ってクロージングするとか、お客さんと関係性をつくるとか、社員と親睦を深めるとか、そういう場はフェイス・トゥ・フェイスが良いと思います。でも、それ以外はリモートで大丈夫ですよね。帰国すると、夜の予定は埋まりやすいのですが、日中に関しては本当にこのミーティングにわざわざ行かないといけないの? と思うことも(笑)。だから、日本に帰ってこなくてもいいなと思っています。
--みんなが理解すれば、お互いそれで良いということになると思います。
海外にいると、仕方ないからオッケーなのです。やっぱり、日本の社長は1年の1/3くらいは海外にいたほうがいい気がします。そうするとこで、良いことがたくさん生まれるはず。一つは、オペレーションに首を突っ込み過ぎなくなり、現場が自立的にやるようになります。もう一つは、世界を知ることで、日本を客観的に見ることができたり、自分にとっての新しい気づきがあったりしますから。
--時差は問題ないですか?
僕個人としては、場所によりますが、時差は結構ポジティブに働きます。ヨーロッパは朝起きると日本は午後なので、朝6時に起きてミーティングをしますが、10時くらいから日本が夜になるので、残りの時間を現地での仕事や自分の時間として使うことができます。
--確かに、昼以降は日本から連絡が来なくなるので静かですよね。
アジア出張は同じタイムゾーンなので、ずっと連絡が来ます。アメリカはもっと最悪です(笑)。時差が逆なので、夜になると日本が起き出す。現地で会食があってもゆっくりできませんし、毎日、夜中の3時か4時くらいまで寝られません。
--そういう意味では、ヨーロッパのほうがまだ自然な流れかもしれません。
ヨルダンは時差が6時間ぐらいなので、かなり良いです。
IT商社マンという生き方
--それは実際に行かれた人の話を聞かないと分からないので、すごく興味深いですね。
いろいろな場所を回ると、それぞれ比較できるという利点もあります。M&Aに失敗する会社は、1回しか会っていない会社だったり、その国に1回しか行っていなかったり、他の国を見ていないのにこの国に拠点をつくろうと決めたりします。僕は北米、南米、インド、それぞれ50社ぐらい回っていますし、ヨーロッパも70社ぐらい回っています。もちろん、アジアも同様です。なので、世界において自分たちのフィールドはどこで、どんな会社なのかというのは大体把握しています。
--各国、各地域、各企業の実態ですよね。
世界共通で言えるのは、大国で人口が多くて国土も広い場所は、外のマーケットをそれほど見てないということです。
--ということは、ロシアもそうですか?
ロシアも全然見ていません。ロシアの田舎の地域に行っても、ほとんどがモスクワを見ています。サンクトペテルブルクは、都市向けに仕事はしていますが、国外から仕事を受註しようという会社はほとんどありません。アメリカに近いブラジルもポルトガル語なので、ブラジルの中だけで仕事をしています。メキシコも同様ですよね。アメリカ向けに一生懸命やっているのは、コロンビアやウルグアイです。
--まるで商社マンが語るエピソードのようですね。
IT商社ですよね。
--そもそも、そういう動き方をしようと思ってやっていたのですか。鮄川さんの行動の源泉は、一体何なのでしょうか?
世界を俯瞰的に見て、正しい判断をしようというのが一つと、多分、私自身が純粋に好きなのでしょうね。知らない場所に行って、旅行ではなく、その国の自分と同じフィールドで仕事している人と話をすることが。興味がある分野の話は、やはりおもしろいです。
--純粋に楽しんでいる、ということが原動力につながっていますね。
スタッフと出張に行くと、大体みんな疲れてしまうのですが、僕はその後さらに30日間で10カ国に行ったりします。だから、どこの国へ行っても「How do you manage your life?」と聞かれます。つまり「プライベートはどうしているの?」と。ひとりで動いているからできる、ということも大きいとは思いますね。
--好奇心と頭のスイッチ、それを世界中のどこへ行ってもすぐに切り替えられるのは素晴らしいです。
最初からこういう人間なので、自分でもよく分かっていないのですが(笑)。
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by Monstarlab Design Journal
Monstarlab Design Journal 編集部です。 モンスターラボデザインチームのデザインナレッジとカルチャーを発信していきます。
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