- 2020.08.14
ここ数年のあいだに、さまざまなデジタルサービスにおいて、「パーソナライズドレコメンド」をよく見かけるようになりました。
パーソナライズドレコメンドとは、簡単にいうと、性別や年代などの属性情報だけでなく、購買や閲覧など行動の履歴にもとづいて商品やコンテンツをおすすめする手法です。みなさんにも、ECサイトなどで「◯◯を閲覧したあなたにおすすめ」「〇〇を購入した人はこんな商品もチェックしています」といった見出しで他の商品をおすすめされたことがある人も多いのではないでしょうか。
A.C.O.の案件の中でも、パーソナライズドレコメンドに取り組みたいというクライアントは増えています。そこで今回はパーソナライズドレコメンドを実施する際に役立つ基礎知識を紹介します。
パーソナライズドレコメンドとは
まずはパーソナライズドレコメンドがどういったものなのかをきちんと理解しておきましょう。
そもそも「レコメンド」とは、人の情報と商品やコンテンツの情報を紐づけることで、その人にあったものをおすすめする方法であり、パーソナライズドレコメンドもその方法の1つです。他のレコメンド方法と比較し、パーソナライズドレコメンドを見ていきましょう。
属性データによるレコメンド
属性データによるレコメンドは、年齢・性別・居住地などの属性データでユーザーをくくり、同じ属性のユーザーがよく買う商品やよく見るコンテンツをおすすめするというものです。たとえば「20代女性に人気の商品」は属性データによるレコメンドになります。
パーソナライズドレコメンド(属性データと行動データによるレコメンド)
属性データによるレコメンドに対して、パーソナライズドレコメンドでは、属性データに加えて、検索キーワード・閲覧履歴・購入履歴などの行動データをもとにその人の興味やニーズを分析し、商品やコンテンツをおすすめします。これにより、ユーザー個人に対してより適したおすすめができるようになります。
たとえば、敏感肌用の化粧水を購入した人に対して、敏感肌用の別の化粧品や、同じブランドの別の化粧品をおすすめするのがパーソナライズドレコメンドです。
ユーザー自身が設定した嗜好情報に基づいたレコメンド
参考までにもう1つ、ユーザー自身が事前に設定した嗜好情報に基づいてレコメンドを行う手法もあります。アプリなどで好きな商品や、自分の性質などについての質問の回答内容に応じて、コンテンツの構成やおすすめされる商品が変化するもののことです。
これも個人の興味やニーズにもとづいて商品をおすすめする方法ではありますが、パーソナライズドレコメンドとは少し違います。パーソナライズドレコメンドの場合は行動から推測するのに対して、このようなやり方は興味やニーズそのものを聞いているからです。どちらが適しているかは使うタイミングによって当然変わりますが、この手法ではユーザーに考えて質問に答えてもらうため手間がかかります。
パーソナライズドレコメンドとその他のレコメンド方法、それぞれ単体で使う場合もあれば組み合わせて使う場合もあります。その人の行動に合わせて臨機応変におすすめできる方法がパーソナライズドレコメンドだと考えましょう。
パーソナライズドレコメンドの仕組みと必要なデータ
次にパーソナライズドレコメンドの具体的な仕組みと、実現する為に必要なデータについて紹介します。まず、レコメンドの仕組みは大きく分けて3つの方法から成り立っています。
①人の類似
②モノの類似
③人の類似×モノの類似
それぞれ見ていきましょう。
①人の類似
一つ目は人の類似にもとづいておすすめをする方法です。よく似た人が興味を持っている商品やコンテンツをおすすめします。属性に基づいてよく似た人を定義する場合もありますし、購買や閲覧などの行動でよく似た人を定義する場合もあります。
②モノの類似
二つ目はモノの類似にもとづいておすすめをする方法です。閲覧した商品やコンテンツの持つ属性と似た商品やコンテンツをおすすめします。モノの場合も、材質や値段などといったモノが持つ属性を情報として持たせることで似ているものを定義できるようにします。この方法を取り入れると、何かを購入しようとしている人に対して、色違いや同じような特徴を持っているけれど、価格が違うものをおすすめできます。
③人の類似×モノの類似
最後は人の類似とモノの類似を掛け合わせたレコメンドの方法です。組み合わせることで「本人がまだ見ていないが興味を持つ可能性のあるもの」をある程度のバリエーションをもっておすすめすることができます。
「人の類似」は新しい発見を提供するもの、「モノの類似」は欲しいと思ったけどニーズが微妙に合わず離脱してしまうという事態をふせぐためのものだとも整理できるかもしれません。みなさんが日頃見かけるものは、大抵がこの2つを組み合わせたものではないでしょうか。
さて、さきほどのレコメンドの種類に照らし合わせてもう一度整理すると、どうなるでしょうか。属性データも行動データも①の人の類似に関わるものですよね。よって、パーソナライズドレコメンドは人の類似をより精度高く定義したレコメンドの方法だと言うことができそうです。
必要なデータの種類
「人の類似」「モノの類似」それぞれに必要なデータも確認しましょう。
人の類似を定義するために必要なデータが、属性データと行動データです。属性データは年齢や性別、居住地などのことで、行動データは商品を閲覧した、購入したといった情報の他、何を高く評価したのかといった情報も含まれます。
モノの類似を定義するために必要なデータが属性データです。値段や価格の他にも色や素材、ブランドなどその商品の特徴を表す情報も含まれます。レコメンドの仕方に合わせて商品やコンテンツにどのような属性を付与すべきかは変化します。
どのデータをとるべきかはあらかじめ決まっているわけではありません。商品やコンテンツ、買って欲しい人の特徴を整理しながらレコメンドの方法を考え、とるべき項目を決めていきます。
精度の高いパーソナライズドレコメンドは機械学習よって実現する
高精度なレコメンドを実現している裏には機械学習の存在があります。取得した属性データと行動データからユーザー一人ひとりの好みを分析し、次にどんな行動をとるか予測することで、ユーザーが求めている商品やコンテンツを的確におすすめできるというわけです。
今回は機械学習の内容については割愛させていただきますが、機械学習についてはこちらの記事で詳しく説明しているのであわせてご覧ください。
精度の高いレコメンドを実現した、Netflixの事例
パーソナライズドレコメンドの仕組みがある程度理解できたところで、実際の活用例を見てみましょう。
今回取り上げるのは月額定額制動画配信サービスのNetflixです。Netflixではデータを細かく取得・分析することで、上手くレコメンドに利用しています。
作品の内容に基づいたきめ細かいカテゴリ分類
Netflixで動画を探すときに出てくるカテゴリに注目してください。以下の画像のように、Netflixではコメディやミステリーといった一般的なカテゴリよりもさらに細かくカテゴリが分かれています。おかげでその人の興味を引くような作品を提示できます。
この細かいカテゴリ分類によるレコメンドを実現している秘密は、コンテンツへのタグ付けにあります。
Netflixでは、公開年や言語、監督名、キャスト一覧、性表現の有無といった基礎情報だけでなく、その作品の雰囲気やストーリーライン、印象的なシーンといった分析にもとづいて属性のタグづけを行っています。そのため、一般的なカテゴリよりもさらに細かいカテゴリ分類ができるのです。このタグがあることで、視聴者の好みをジャンルという大きなくくりだけでなく、より細かく定義できます。
視聴履歴に紐付けたアートワークの最適化
作品をユーザーによりパーソナライズするための取り組みは他にもあります。以下の2つの画像をみてください。
これらは二つともタイトルの通り同じ映画のアートワークです。Netflixでは一つの映画に対して複数のアートワークを用意しています。それはなぜでしょうか。
実はアートワークをユーザーの視聴履歴に合わせて変化させているのです。さきほどお見せした二つのアートワークの場合、一方は男女二人が寄り添う恋愛映画のような雰囲気で、視聴履歴に恋愛映画が多い人に向けて提示するものになっています。
もう一方はアートワークに出ている俳優(ロビン・ウィリアムズ)が出演している映画をよくみている人に対して、ロビン・ウィリアムズが出ていることがわかるように作られたアートワークになっているのです。
単にレコメンドするだけでなく、視聴履歴に合わせてアートワークを変えることで、レコメンドする作品をさらにパーソナライズした形で届けることができるのです。
このようなきめ細かいパーソナライズは機械学習に巨額の投資をしているNetflixだからこそできることかもしれません。ただ、商品やコンテンツに属性を付与するときの考え方や、単なるレコメンドにとどまらず、パーソナライズ化までしていくことなど、サービスをつくる上で参考にできる点は多いと思います。
ユーザーにレコメンドの根拠を説明することも大切
最後に、パーソナライズドレコメンドを行う場合は、どんなデータに基づきどのように商品をおすすめしているのか、その根拠をユーザーにきちんと示しましょう。その人に合わせておすすめするからこそ根拠がわからないとどこでデータが取られているのかと不安に感じてしまいます。
以上、パーソナライズドレコメンドを実施する際に役立つ基礎知識をご紹介しました。パーソナライズドレコメンドに新しく取り組もうとする方に、少しでも参考になれば幸いです。
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