- 2019.10.03
ユーザーとブランドの信頼関係が崩れつつある
ブランドが成長していく上で、ユーザーから「信頼」を得ることは、ごくごく当たり前の条件です。信頼されていないブランドに、人々は関わろうとしませんよね。
しかし、そのことを理解していながら、毎日のように、ハッキング、セキュリティホール、データリーク、個人データの流出や悪用などのニュースが増えています。自分が利用しているブランドのセキュリティ状況に、懸念を抱いている人も少なくないでしょう。
ほとんどのブランドは信頼をなくさないために、プライバシーポリシーを公開したり、安全なサーバーを使用するなどの配慮をしています。
もちろん、プライバシーポリシーを表記することは必要不可欠なことです。ただし、その内容を見てみると、一般的には理解することが難しい専門的な法的文書のため、実際にそれを熱心に読む人はほとんどいません。
そのため、最近は多くの企業が、信頼を構築するために様々な工夫を凝らしています。
Facebook プライバシー基本ガイド
みなさんは、Facebookを信頼していますか?
ケンブリッジ・アナリティカの一件を思い返してみると、一概に信頼しています! とは言えないかもしれません。しかし私は、彼らが自分たちのブランドを信じてもらえるような努力を、一生懸命やっているように思います。
たとえば、「プライバシー基本ガイド」 を見てください。
非常にシンプルかつ明快な言葉で記載されていて、法的文書のような典型的なものとは大きく異なります。
添付のイラストから分かるように、かわいくてフレンドリーな印象を与え、ユーザーはすべてのページでデータを管理できる簡単な「プライバシー診断」にアクセスできます。信頼関係を築くために、一から設計されているのです。
Google セーフティ センター|Google Safety Center
Googleはどうでしょう?
彼らはサービスの機能が安全であることをアピールするため、それだけに特化したWebサイト Privacy Basics を提供しています。
ここではプライバシーとセキュリティ、そして子供たちのアクセス制限を管理できる方法を伝えています。 Facebookと同じように、明確で適切に設計されているのが分かります。
FacebookとGoogle、どちらもよく考えられていて魅力的に仕上がってます。正直、私はすべての内容を読み込んだわけではありません。
しかし、これらのブランドは慎重にプライバシーポリシーを作成していますし、設計に手間がかかっていることも伺えます。ですから、施策を行っていない競合他社よりもアドバンテージを得られています。
でも、本当にかわいいイラストと、分かりやすい文章だけで、ユーザーとの信頼を築くことができるでしょうか?
仮に第一印象で安心感を与えられたとしても、その後、ページにアクセスしてくれるユーザーはそれほど多くないような気がします。
適切に設計されたコンテンツは、積極的に情報を求めている熱心なユーザーにとっては歓迎されます。しかし、どんなに良いコンテンツを用意しても、より多くの人々には届けるのは難しいといえます。
ブランドは、プロダクトやサービスで展開されているコンテンツを通じて、信頼してもらえるようなタッチポイントを提供していく方法を見つけなければなりません。
各ブランドの事例から、どんな工夫をしているのか見てみましょう。
ユーザーと信頼は、体験の中で構築していく
1. Uber
Uberが提供しているサービスは、交通安全、個人の安全、プライベートアドレスなど、ユーザーとの信頼関係に大きく依存しています。そのため、アプリ内のコンテンツや操作画面などで、セキュリティに関する情報をアナウンスしています。
これは、ドライバーに電話をかける時の画面です。Uberは個人の電話番号を隠すように工夫し、ユーザーのメリットも明確に説明しています。何気なく配置されたセキュリティアイコンも、安心感につながっています。
Uberでドライバーを予約するとき、すべてのユーザーはこの画面を通過します。Uberはこのスペースを活用して、安全性が高いことを効果的に訴求しているのです。
2. Google Maps
Google Mapsには、機密性の高い情報が数多く含まれています。Googleはアプリ内に「マップ内のあなたのデータ」を、メニューに設置しています。これをクリックする(画像①→②→③)と、ユーザーに安心感を伝えるコンテンツにつながります。
3. E-Boks
コペンハーゲンに本拠地を置く、デジタルエージェンシーのNodes(Monstar Labグループの姉妹会社)は、デンマークで高い信頼性を誇るアプリ・トップ5にランクインしたE-Boksの再設計を手掛けました。
E-Boksは、銀行、政府機関、保険会社などから提供される公式文書を、安全に保管するためのアプリです。私はシニアプロダクトデザイナーのSøren Clausenに連絡し、開発において信頼を得るために心掛けたことを聞いてみました。
「ユーザーにシンプルな体験を提供する。そのことを徹底すれば、ブランドの信頼に繋がると考えていました。ですから、E-Boksも全てのユーザーが迷ったり悩んだりせず、正しく理解して操作できるよう、使い慣れたエクスペリエンスの構築に焦点を当てました。
開発中に多くの時間を費やしたのは、フロントエンドが問題なく動作しているかどうかの確認作業です。フロントエンドは、製品やサービスのセキュリティに、直接なにか影響をおよぼすことはありません。ユーザーもアプリを使っている時は、バックエンドでなにが起こっているのか知ることができません。仮に、セキュリティに問題があったとしても、表面的には分からないですから。
だからこそ、ユーザーが直接触れるフロントエンドで安全性を示す必要があります。それには、高い品質のものを提供し、安心感を持ってもらうこと。当たり前のことですが、その影響は想像以上に大きいんですよ」
セールスポイントになり得る、プライバシーとセキュリティ
ニュースなどを通じ、ブランドへの不信感が表沙汰になるにつれて、多くのブランドはセキュリティやプライバシーを製品マーケティングの重要なセールスポイントとして扱うようになってきました。その事例は、デジタル決済サービスでよく見られます。
例えば、Google Payのプロモーションサイトでは、サービスの利便性をアピールしながら、セキュリティ面に配慮していることも明確に伝えています。
「お客様のセキュリティを真剣に考えています。 Google Payは、業界をリードするセキュリティ技術で決済情報を保護しているため、安心してお支払いいただけます」。
Webサイトでは、モバイル向けに最適化された安全性を説明する動画と、詳細が分かるGoogleのセーフティセンターへのリンクを掲載しています。
日本では「信頼のギャップ」が拡大している?
ちなみに、7payがサービスを開始した際の、プロモーションサイトを憶えていますか?
使いやすさ、利便性、ユーザーが獲得できるお得な情報が公開されました。ただし、 Webサイトのどこにも、セキュリティについて言及されていません(こちらのWebアーカイブを参照)。
その後、ハッキングのスキャンダルにより、セブン-イレブンのデジタルセキュリティの評判はボロボロになりました。あらためてプロモーションサイトを見返してみると、彼らのマーケティングにおける優先順位が確認できるはずです。
おそらく、経済的な損失よりも、信頼に対する損害のほうが大きかったのではないでしょうか。
7payの一件は、業界に大きなインパクトを与えました。その一方で、競合他社にとっては、この機会にセキュリティに対する真摯な姿勢をアピールすれば、差別化がはかれる絶好のチャンスにもなったはずです。
しかし、PayPay やメルペイ のWebサイトを見ると、そのような記載はありません。 7payと同様に、彼らは使いやすさと利便性だけに焦点を当てています。
日本のユーザーは、海外の製品やサービスよりも、日本製を信頼していませんか? おそらく、日本の企業だから大丈夫、という認識を持っている人もまだまだ多いことでしょう。
しかし、7payのハッキングやベネッセの個人情報漏洩事件など、日本企業は非常に脆弱ということが、だんだん知られるようになってきました。
逆に、海外ブランドはプライバシーやセキュリティの強化を加速させています。何もアクションを起こさなければ、今後は更に、そのギャップが大きくなっていくことでしょう。
プロダクトではなく、プライバシーを買う
セキュリティに対する機能や信頼構築に向き合う姿勢を伝えることにより、ユーザーは自信を持ってそのサービスを選べるようになります。
しかし、一部のブランドは、広告のプロモーションメッセージとして使用することにより、セキュリティとプライバシーのアイデアをさらに一歩進めています。
実は、この記事を書くにあたり、ニューヨークのデジタルエージェンシーであるFuzz(Monstar Labの別のメンバーで、シェイクシャックなど外食向けのデジタルプロダクトなどを手掛けています)に連絡してみました。
クリエイティブ・ディレクターPaul Siekaも、今回のテーマに関心を持っているそうです。最近、彼が仕事に行く途中に撮ったという、Appleの看板の写真を私に送ってくれました。
Your iPhone knows a lot about you.
But we don’t.
Privacy. That’s iPhone.
このメッセージを、あえて広告に使うAppleの狙いが分かるでしょうか?
プライバシーに関するアプローチは、今現在のAppleのセールスポイントであり、Appleはこの要素を推進しています。
最近は、iPhoneの高機能なプロセッサやカメラ機能が優位性になりづらくなっています。そんな状況も踏まえ、プライバシーは価値ある差別化要素になると考えているのでしょう。
言い方を変えると、ユーザーはiPhoneという製品(スペック)にお金を支払っているわけではなく、ブランドの信頼を買っているともいえます。
しかしAppleは、このプライバシーのメッセージを広告だけで伝えているわけではありません。
ティム・クックは、 2018年に開催されたプライバシーに関するEUサミットで、データ収集をめぐってライバルを非難しています。
「プライバシーは基本的な人権であるとAppleは考えていますが、誰もがそのように捉えているわけではないことも認識しています」
世界中のニュースがこのコメントを取り上げ、技術の巨人であるFacebookやGoogleのスタンスと対比する形で、消費者の信頼を勝ち取るための戦いを挑みました。
信頼を築くために、完全なブランド体験を設計する
では最後に、あらためて今回のおさらいをしてみようと思います。
- プロダクトを宣伝する際には、ユーザーが安全であることに自信が持てるよう、マーケティングレベルで信頼を築いていく配慮が必要です。
- ブランドの透明性と安心感を、実際の製品(アプリなど)自体に組み込む必要があります。
- ユーザーが詳細を知りたいと思ったタイミングやアクションをする際に、メッセージやコンテンツを活用しながら、安心感をサポートする必要があります。
- 信頼に対する考え方や取り組みは、企業レベルで伝えていく必要があります。そのことで、ステークホルダーやメディアに対して、製品やサービス単体ではなく、企業全体が重要視していることを知ってもらうことができます。
製品やサービスを改善したり、他との差別化をはかるとき、プライバシー、安全性、セキュリティなどの施策は、決してホットなトピックではありません。しかし、今まさにこれを実行する機会が訪れています。
ブランドへ対する信頼は、ユーザーが利用するきっかけになったり、数多くの類似製品やサービスの中から選んでもらう理由づけになったり、競合他社から乗り換える要素になったり、継続的に利用してもらうためにつながります。
つまり、選ばれるブランドになるための価値になり得るのです。
A.C.O.では、ブランドコミュニケーションの戦略をつくるお手伝いをしています。
既存のデジタルサービスを改善したり、今よりもっとたくさんのユーザーに利用してもらいたい。
私たちは、そのためのブランド体験を構築するアイデアやソリューションを提供し、お客様と一緒にブランドの成長を支えます。
Illust:岩田 紗季
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F