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多様な実践者との対話に、日本らしいデザインのヒントを求めて。Spectrum Tokyoが思い描く、ゆるくて実りあるフェスティバルとは

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デザインは常に様々なテーマやキーワードが飛び交い、進むべき方向や答えも多様になってきている。そんな中で私たちが求めているのは、方法や手法ではない何かで、それをずっと考えている人がいる。UX MILKを7年間運営し、今年新たにSpectrum Tokyoを立ち上げた編集長・三瓶さんに、今何を思い、何をしようとしているのか聞いてみた。 そこにはまさに “色々” なデザインの解を捉えるための新しい仕掛けがあった。

答えのないUXを、みんなで集まって探りあう場所が必要だった

ーまずは自己紹介をお願いします。

株式会社フライング・ペンギンズというUXデザインの会社で、新規事業として「Spectrum Tokyo」というデザインコミュニティプラットフォームをつくっています。メディアを主体にコミュニティやイベントなどが付随していて、僕はその編集長でありプロデューサーをやっています。

ー三瓶さんはこれまで「UX MILK」を運営されてきましたよね。

前職の株式会社メンバーズでも同じく新規事業を担当していて、約7年ほどUX MILKというUXデザインコミュニティをやっていました。

UX MILKもベースはメディアで、コミュニティをやろうと思って始めたわけではありません。でも「記事だけじゃおもしろくないし、勉強会でもやろうかな」くらいの“ノリ”でイベントをやってみたら、予想以上にたくさんの人が来てくれて。当時そういうゆるさのあるイベントがあまりなかったからか、どんどん人が集まってコミュニティも大きくなり、毎月のイベント開催から最終的にはカンファレンスを開催するまでになりました。

ー「UXデザイン」をテーマに選んだのはなぜでしょうか?

UXデザインに関しては、自分自身も理解不足であることに対して課題感があり、学びたいと思っていたことからテーマに選びました。

ずっと新規事業や新しいサービスの企画をやってきたものの、失敗続きで人に来てもらうことの難しさを感じていました。出すサービスがあまりにも鳴かず飛ばずな状態が続き、あるとき上司に言われたんです、「三瓶君、UXわかってないんじゃない?」って。ものすごく悔しかった。

そこで、勉強のために海外のUXデザインに関する記事を読みはじめたら、どんどんおもしろくなっていきました。それに、「UXデザインって僕のような人間のためにあるのかもしれない」と感じもしました。

それは、僕自身がこれまでさまざまな職種をまたいで仕事をしてきたことに関係しています。マーケター、デザイナー、ディレクター、プロデューサーなど、エンジニアリング以外ほぼ全てやってきたけど、それ故に「自分は何者なんだろう」というもやもやした気持ちを抱えていました。でもプロダクトやサービスに関するあらゆることをやってきたからこそ、それら全てを繋げないと良い体験はつくれないとわかっているし、そこにふんわりとして捉えようのない部分があることも知っている。だからこそ、「全部やってきた自分が活きる」と感じたんです。

三瓶さん

ーUX MILKはどのような場所だったのでしょうか?

まずはメディアとして、海外の記事の翻訳から始めました。とにかく僕、勉強が嫌いで、セミナーに行っても60分も耐えられない不真面目な人間で(笑)。それでも海外の記事をおもしろく読めたのは、いろいろな例え話が盛り込まれていたり、アプローチもさまざまだったり、そもそも感情などのふわっとしたものも含めてUXを捉えようとしていたからです。

そこには「UXデザインには答えがない」という気づきもあり、イベントも自ずとそれを反映したスタイルになっていきました。UXを捉えるために必要なのは、デザインの現場の最前線で頑張っている人たちが集まり、いろいろな事例を持ち寄って共有しあえる場だと感じていたんです。

「日本らしいデザイン」は本当に無いのか?自分自身の答えに感じた違和感

ーそんな三瓶さんが、新しくSpectrum Tokyoを立ち上げました。UX MILKとは何が違うのでしょうか?

UX MILKはコミュニティとしても大きくなり、UXデザインという領域の認知を広げるという意味では多少は業界に貢献できたと思っています。でも、運営開始から7年経った昨今のUXデザインの議論を見ていて、もやもやすることが多くなってきてしまって。方法論やフレームワークなどの議論ばかり取り上げられて、本質的なデザインやユーザー体験の話というのは置き去りなことも多いなと感じるようになりました。

UXデザインもより専門的な領域に細分化してそれぞれにサイロ化している印象があるのですが、そういったコミュニティを横串にして「そもそもUXデザインを使って何をするのか」を話せる場所が必要なのではないかと感じました。みんなそれぞれ領域を広げていかなければいけないし、もう「UXデザイン」などの手法の範疇に収まっていてはいけない。「やっぱりみんなでふわっと集まることって大事なんだな」という思いが、Spectrum Tokyoの立ち上げに繋がりました。

ーSpectrum Tokyoでは、どのようなことをテーマにしているのでしょうか?

Spectrum Tokyoでは「デザインの多様性」と「日本のデザインを海外へ」というテーマに挑戦しています。多様性に関しては、「色づけしない」「ラベリングしない」ということを大切にしていて、仕事の領域や職種などにこだわらないようにしています。メディアにしろイベントにしろ、「なんでもアリ」で集まってデザインについての気づきを得られる場にしたいと思っています。また海外へのアプローチに関しては、国内の記事インタビュー記事を英訳したものの配信を行っています。メディアとしてはまだまだこれからですが、海外の方からも概ね良いフィードバックをもらっています。

ー「デザインの多様性」は先ほど三瓶さん自身の経験のお話がありましたが、「日本のデザインを海外へ」についても何かご自身の経験が関係しているのでしょうか?

複業でデンマークのデザインカンファレンスのDesign Mattersに関わっているのですが、そこの主宰に「日本らしいデジタルデザインってどんなの?」とある日聞かれたんです。特にないかもと思い、その場では「基本的に西洋のトレンドで回ってるからパッとは思いつかないよ」と返したんですが、それ以来自分の答えにずっと引っかかってたんですよね。そんなはずない、日本らしいデザインが何かあるはずだと。

僕はアメリカに住んでいたことがあるんですが、アメリカ人は丁寧さには欠けるけどパワーがあってスピードが早く、日本人は丁寧だからこそスピード感に欠ける部分があると感じています。それ故か、スピードを求められる場面で価値を出せないだけで日本人はネガティブに捉えがち。でもそれは良し悪しではなくそれぞれの特色であり、そのことをしっかり認識して「丁寧さが必要な場面で呼んでくれ」と言えればいいのではないだろうか、と思うようになったんです。

そう考えると、日本人のこの国民性はUXデザインにおける一つのキーになるのではないかと感じました。0から1を生むスピード感はアメリカ人の得意とするところだけど、生んだものを長く運営していくための1から10や10から100のきめ細やかなユーザーエクスペリエンスづくりにおいては、日本人は非常に優れています。日本ほどサービスが行き届いている国はないし、日本ほど声なき声に耳を傾ける国はないと言っている海外のデザイナーもいました。日本にいる僕たちには当たり前すぎて自覚がなくても、日本人が得意なことや誇れることはもっとあるのではないかと思うんです。

そういうことを訴えていくためには、やはりメディアやイベントが必要でした。どちらも大変なのでまた新たに始めるのは乗り気ではありませんでしたが(笑)、40歳を目前にして自分にしかできないことは何かを考えたら、これしかないし、やらないわけにはいかないなと。僕はDesign Mattersとも繋がっているから、彼らを通じて日本のデザインを海外にアピールできるし、海外の情報に触れる機会をつくったり生の声を届けることができれば、国内に向けたエンパワーメントもできるはず。「海外の人も日本のデザインを知りたがっているのだから、これを機に僕たちもそれが何なのか考えてみようよ」と問いかけていくのがSpectrum Tokyoなんです。

出会いと対話が人を成長させる、その体験を取り戻したい

ー12月の「Spectrum Tokyo Design Fest 2022」は、Spectrum Tokyoとして初めての大型イベントになりますね。

やはりメディアだけでなくイベントもやらないと本当の意味でコミュニティとして繋がることはできないだろうと考えていたので、メディアを立ち上げてすぐにイベント開催を決めました。

コンセプトはUX MILKの時から一貫していて、業界の最前線で頑張っている人たちを一堂に集めて、みんなで喋れる場をつくること。やはりイベントの醍醐味は「出会い」と「対話」です。人と出会い、話をして刺激を得ていかなければ、人は成長しなくなってしまいます。

コロナでオンラインのイベントは増えましたが、出会いにはなっていない感覚がありました。登壇者に直接質問したり、帰りのエレベーターでたまたま一緒になった人と話して盛り上がるような体験は、オンラインでは得られません。そのため、Spectrum Tokyo Design Fest 2022ではコーヒーやお酒を片手に交流できるスペースを設けたり、プレゼンの時間もなるべく短くして、登壇者と参加者がフラットに交流できるようにしたいと考えています。

正直、みんなどこかオフラインでの交流を億劫に感じはじめている部分もあると思います。僕自身も暇さえあれば家にこもってゲームをしていたいし(笑)。それでもやっぱり出会いって必要なもの。コロナを経て忘れてしまったその体験を、Spectrum Tokyo Design Fest 2022で取り戻したいんです。

ー今回のSpectrum Tokyo Design Fest 2022でこだわったポイントは何でしょうか?

先ほど「僕はプレゼンを60分も聞けない」と言いましたが、仮にその発表時間が半分になったとしても情報の濃さってそうは変わらないんですよね。それに人それぞれ興味関心も多様化しているので、一方的に大勢に向けた話を聞くより、自分の相談に乗ってほしかったりもします。そのため、まずセッションの時間は15分、長くても30分を最長としました。

そして削った分は、AMA(Ask Me Anything)という時間を設けているのがポイントです。「なんか質問ある?」くらいのゆるいノリで登壇者と参加者がカジュアルに意見交換できる場で、話しかけやすい雰囲気づくりを目的としています。意見ではなく、もはや感想を伝えるだけでもいいのかもしれません。

ーAMAなどを通じて、どのようにデザインに触れてほしいですか?

正直デザインって、今もまだ高尚なもののように感じることがあります。美大出身でもないのに偶然デザインに関わることができてしまった僕は、どこか「自分のことをデザイナーと名乗っていいのだろうか」と感じているし、今でも自分のことをデザイナーとは言っていません。

それでもデザインは好きだし、もっと親しみを感じるデザインもあるはず。Spectrum Tokyo Design Fest 2022は、どんなルーツを持った方でもデザインをおもしろがれる場所にしたいと思っています。キャリアを重ねていくと「美大出身」はルーツの一つでしかなく、美術を学んできた人がビジネスを学んだり、ビジネスを軸にしてきた人がデザイン思考やアートを学んだりします。そのグラデーションが、大人になっていくことのおもしろさなんだと思います。

ガラパゴスを武器に、偏愛を個性に。日本のデザインをグローバルで試してみよう

ーSpectrum Tokyo Design Fest 2022は、参加する方にとってもこれからのデザインを考える場になると感じています。三瓶さんは、これからのデザインにとって必要なことは何だと考えていますか?

どの業界でも言えることですが、ひとつの業界に閉じていては価値は出せません。昨今はT型人材などと言われていますが、デザイナーは今後より一層さまざまなものを広くデザインと捉えていかないとサバイブできないはず。国内外のさまざまな業界、領域に広く関心を持って、多様な視点を身に着けて、ガラパゴスであることをある種武器として外に出ていく時期に来ていると思います。

日本は良くも悪くもガラパゴス状態です。そうあることが独特でおもしろいと捉えられるかもしれないし、逆に井の中の蛙になっているのかもしれない。そのどちらなのかSpectrum Tokyoでは探っているところです。日本のデザインがどう特殊かなんて、グローバルに出してみないとわかりません。そうした実験を通して日本の国民性やグローバルでのポジションをもっと認識できると、より良いコラボレーションが生まれるのではないでしょうか。

デザインってビジネスでも語られるようになったり、どんどん定義が広くなっていっていると思うんですけど、僕はその広さが良いと思ってるんですよね。日本はアート文脈から始まってる感が強いので、そこは一旦おいてビジネスの話をする場面が多くなっている気がしますけど、デザインのアート寄りな感覚とかセンスっぽい部分って、ビジネスの場面でも関係なくないと思うんです。デザインってクリエイティブな営みだと思うし、色々とバランス良く考えてものづくりできるともっといいなと考えています。

ーありがとうございます。最後に、どのような方にSpectrum Tokyo Design Fest 2022に来てほしいか教えてください。

デザイナーだけでなく、ディレクターやエンジニアなどさまざまな方に来てほしいですね。ラベリングを気にしない場なので、いろいろな方が混ざったほうがおもしろくなるはずです。その上で敢えてどんなデザイナーに来てほしいかと言えば、デザイナーであることにこだわっていない方。もっと自分の幅を広げたいと思っている方は是非来てみてほしいです。

デザインに関わる方はみんなどこかしらシャイな部分を持っているし、コロナを経て、オフラインで話すということを忘れてしまった方もいるかもしれません。でも、そんなこと皆が思ってることなんですよね。だからこそ、Spectrum Tokyo Design Fest 2022は話しやすい雰囲気のフェスティバルにしたいと思っています。是非、だまされたと思って来てみてください。

多様なデザイン実践者が集まる、年に一度のフェス

Spectrum Tokyo Design Fest 2022

Spectrum Tokyo Design Fest 2022 Day2に、A.C.O.からはUX Dir.の川北が登壇します。

作って終わりではない、持続可能な強いサービスを作るための “データのデザイン”の重要性について、クライアントワークの現場のUXデザイナーならではの視点でお話しさせていただきます。単に数字を追うのではない、自由な発想やアイデアのための冴えた指標づくりに興味がある方は一緒にお話しできればと思います、是非会場でお会いしましょう!

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