- 2021.09.27
近年、デジタル庁発足に伴い日本国内でもDX(デジタルトランスフォーメーション)への注目が高まっています。新型コロナウイルス感染拡大がDXを後押しする大きなきっかけとなったことは言うまでもありません。
また、DXを実現するための手段としてのUI/UXへの注目も今まで以上に高まりつつあります。平井卓也デジタル行革担当大臣も、政府のDXを実現する一つの手段としてUI/UXの重要性を強調しています。
今回は、世界で初めてMaaS(Mobility as a Service)社会を実現した国として知られるフィンランドの取り組みをUI/UXの観点から紹介します。
前回の記事は以下よりご覧ください
UI/UXの観点から見る海外行政リサーチ①: ナレッジ共有に特化した米国の取り組みとは?デジタル行政の取り組み
国連の経済社会局(UNDESA)が昨年行った電子政府ランキングによると、フィンランドは193カ国中4位にランクインしています。ちなみに、日本は14位にランクインしています。電子政府ランキングは、オンラインサービスや人的資本、通信インフラの3つの個別指標をもとに算出されています。
また、2020年の欧州連合(EU)のデジタル化のランキングでは、フィンランドは2019年から2年連続で28カ国中1位に輝いています。通信の接続性、デジタル人材、ビジネス分野・公共サービスでのデジタル活用状況など5項目から算出されたランキングになっています。このように、フィンランドのデジタル行政は非常に高く評価されていることがわかります。
実際にフィンランドでは、あらゆる公共サービスのデジタル化が進められています。パスポートや、社会保障、税金や医療などの多くの公共サービスの申請をオンライン上で完結させることができます。医療分野では、個人の医療データがオンライン上でまとめられており、次回の診察のタイミングなども教えてくれます。また、積極的にオンライン診断も導入しており、病院で長時間待つ必要はありません。
このように、フィンランドでは行政主導のさまざまなDXの取り組みが行われています。今回は、その中でも今注目されている、MaaS(Mobility as a Service)の取り組みを紹介します。
フィンランドにおけるMaaS
MaaSとは?
MaaSは、テクノロジーを駆使してさまざまな移動サービスを統合することを指します。現在日本では、電車やタクシーなど、それぞれの交通手段ごとに支払いを行い、使用しています。こうした個別の交通手段をアプリなどで統合し、まとめて検索や支払いができるようにして、効率化を図ろうというものがMaaSです。
フィンランドのMaaSを牽引する、スタートアップのWhimは以下のようにMaaSを定義しています。
MaaS is short for Mobility as a Service, bringing all means of travel to one place, easily accessed through a smartphone, anytime, anywhere.
訳: MaaSとは、Mobility as a Serviceの略で、あらゆる移動手段を一つの場所に集約させ、いつでもどこでもスマートフォンで簡単にアクセスできるようにすること
MaaSを導入することで、交通機関の効率化や交通渋滞の緩和、大気汚染の抑制などにつながることから、今世界中で注目されています。
なぜフィンランド?
フィンランドはMaaSの発祥地として有名です。首都であるヘルシンキは、世界で初めてMaaS社会を実現した最先端都市都市としても知られています。
フィンランドは自動車依存が高く、交通渋滞や環境汚染などの問題が深刻化していました。また、高齢者ドライバーの増加による交通事故も大きな問題となっていました。2025年のOECD諸国の老年人口指数の平均が33%に対し、フィンランドの老年人口指数は43%まで上昇すると言われています。
こうした背景から、フィンランドでは2016年にMaaSの実証実験がはじまり、そこからMaaSの概念は世界中に広がりました。2018年には、約1年半という短さで、MaaS導入のために交通法の改正を行ったことも話題になりました。
また、フィンランドには産官学連携の非営利の組織であるITS(Intelligent Transportation Society of Finland)が存在します。ITSでは、民間団体が主導しつつ、政府がサポートすることで、公共交通機関のオープンデータの共有やプラットフォームの開発が行われています。
MaaSアプリ「Whim」のUXとUI
アプリ概要
「Whim」はフィンランド国内で使用されている、MaaSのアプリです。世界初のMaaSアプリとして知られていますが、2016年設立のスタートアップ企業が開発を行っています。アプリを通して、ルート検索からチケット予約・決済などができ、あらゆる交通サービスを利用することができます。
Whimには、無料版、有料版、アンリミテッドの3つのプランがあります。無料版では経路検索のみが可能で、交通機関を利用する際には利用料金を別途支払う必要があります。一方で、有料版では月額で一定料金支払うことで、公共交通機関を追加料金なしで利用することができます。アンリミテッドになると、タクシーやレンタカーなども一部条件付きで、追加料金なしで利用することができます。
利用頻度が高いほどお得になる仕組みになっているため、ユーザーはより多く公共交通機関を利用しようとする心理が働きます。結果として、自家用車での移動が減り、渋滞や排気ガスの問題を解消することにもつながっていくと言われています。2019年のWhimの調査によると、ヘルシンキの一般的な住民の交通手段の52%が公共交通機関や自転車、徒歩であるのに対し、Whimユーザーは92%であることがわかったそうです。Whimユーザーの自家用車利用が実際に減っていることがわかります。
アプリの使用方法
アプリの使い方に関しては、日本で利用されている乗り換えアプリと大きな差はないように思います。地図または検索画面から経路検索を行うと、検索時点での効率的な移動手段を表示してくれます。
UIに関してみてみると、所要時間が大きく表示されています。また、発車時間だけでなく、発車までの時間が表示される点も非常に便利です。全体的に、情報が最小限に抑えられており、無駄がないため非常にシンプルな作りとなっています。
一方で、日本のアプリとの大きな違いは、使用する路線や経由地などが経路検索した際に見えず、一度タップしないと確認することができない点です。日本は、特に路線の数が多いため、路線を気にする人にとっては少々不便かもしれません。
経路検索フィルターのなかには、「地球に優しい順」という項目が存在します。時間や値段だけでなく、CO2の排出量の少ないルートを表示させることも可能です。環境配慮をしているフィンランドならではの発想で、さまざまな人が気持ちよく使える工夫がされていると言えるでしょう。
タクシーを利用する際には、車種も同時に選択することが可能です。乗車人数によって、大きめの車種を選択することができ、値段も車種に応じて変動します。
アプリ内でタクシーを含めた公共交通機関のチケットを購入するとバーコードが発行されます。乗車時にバーコードを見せればスムーズに公共交通機関を利用することができます。
至ってシンプルなアプリですが、UI/UXがよく考えられており、自由度が高く、非常に使いやすいアプリになっているように思います。
まとめ
今回は、フィンランドのMaaSの取り組みをUI/UXの観点から紹介しました。実は、日本でも大手不動産会社が主体となって、Whimを使用した実証実験を行っているようです。日本でもWhimを利用できる日も近いかもしれません。
引き続き、A.C.O. Journalでは海外行政のUI/UX事例についてレポートしていきますのでお楽しみに!
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関連リンク集
- 2020 United Nations E-Government Survey
- The Digital Economy and Society Index (DESI) 2020
- Digital Government Factsheet Finland
- EnterFinalnd(e-service)
- Whim Official site
- Whim-impact 2019
- Intelligent Transportation Society of Finland(ITS)
- モビリティの変革は不動産にも影響が!? 「MaaS×三井不動産」の実証実験の中身を聞いた
- Finland’s old-age dependency ratio by OECD
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by Monstarlab Design Journal
Monstarlab Design Journal 編集部です。 モンスターラボデザインチームのデザインナレッジとカルチャーを発信していきます。
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F