- 2017.08.03
あれもこれもすぐに実現したいモンスタークライアントと挑んだ難題だらけのサイトリニューアル
世界13カ国34拠点に広がるグローバルネットワークを活かし、ビジネスから一般生活に至るまで、幅広い分野においてマーケティングリサーチを手がけている株式会社マクロミル。今年3月には再上場を果たし、以前にも増してグローバル化を加速させている。
ACOでは、企業イメージを古いものから刷新・再訴求するためのブランディングと、来訪者からのお問い合わせ促進を両立させるためのサイトの再構築&リニューアルを担当。言い方を変えると、限られた時間・条件の中で、高いクリエイティビティを発揮しながら、コンバージョンを向上させてほしいという難題を提示された、いわばモンスタークライアント様です。
マクロミル マーケティングプロダクト本部から中野 崇さん(エグゼクティブマネジャー)、吉村 咲紀さん(マーケティングコミュニケーションユニットコンテンツマーケティンググループ長)、亀ヶ谷 一寿さん(マーケティングコミュニケーションユニットコンテンツマーケティンググループ)の3者を迎え、ACOからジェイムズ ボウスキル(アートディレクター)、安田 翼(プロジェクトマネージャー)が聞き手となり、本件を通じて生まれた提供価値を紹介します。
残り数日に迫ったパートナー選定!? 逆境から生まれた信頼関係
——ACOに依頼があったのが約1年前。実は再上場の時期が未確定だった上に、比較的タイトなスケジュール状況でプロジェクトがスタートしましたよね。
亀ヶ谷さん 色々な事情が重なり、残り3日でパートナー様を決定しなければいけない状況でお電話させていただき……。とにかく助けてくださいと、ざっと要件をお伝えしたのが夜8時。そこで「明日、何時にお会いできますか?」と汗。
安田 で、翌日の夜にさっそくお会いして。
亀ヶ谷さん 色々な意味で終わりかなとは思っていましたね汗。
安田 初回のお電話で、あんなにも焦っていたお客様は初めてかも笑。ちなみに、通常はコンペティションで選定しているのでしょうか?
中野さん はい。基本的には2〜3社にご協力いただきますが、提案書の段階である程度は絞ることができます。というのも、私は営業職出身なので、これはコピペだなとか、熟考されているなという違いが分かります。そういう意味でも、提案書の段階で本気度を測ることができます。しかも今回は、コンセプト作りも含めたリニューアルが目的だったので、提案内容だけでなくディスカッションパートナーになっていただけるかどうか、という点を大切にしていました。
安田 ディスカッションできる機会や場を設けていただけるのは、受託の立場である私どもにとってもありがたいことです。要望のまま進めてしまうと、自分たちが本当に正しいと思ったことをぶつけられません。現状、約8割が代理店を挟まない直取引のクライアント様なのですが、チームパートナーと意識で関係性を築いてくださる方々とは、長いお付き合いをさせていただけています。
吉村さん 私は以前、エージェンシーに在籍していたので双方の気持ちが理解できるのですが、クライアントの目的に合わせつつも、きちんと御社なりの提案をしていただけたのはありがたいと思いました。
中野さん 採用される・されないに限らず、遠慮なくアイデアや意見を伝えていただくことで議論が回りますし、一巡してやっぱり私達は私達の意見が良いです、となればお互いのブレも生じない。そのようなプロセスがあることで、それぞれが大事にしているポイントも理解できますし、今回はまさにそういったキャッチボールを出来たのが良かったですね。
「グローバルサイトとしても全く問題ない」とグローバルCEOからも高評価を獲得
——あらためて、今回のリニューアルにあたり、どのような課題があり、新しいサイト通じてどのような狙いを設定されていたのでしょうか
吉村さん マクロミルは2000年に創業した日本の企業ですが、2014年にベインキャピタルの傘下に入り、オランダのMetrixLab社を買収した後は、企業としてのカラーもグローバル化を推進しました。しかし、サイトは長年変っていなかったため、ドメスティックかつ営業が強いというイメージから脱却できていませんでした。
中野さん グローバルCEOもマクロミルグループのビジョンは“First Truly Global Digital Research Company”であると明確に打ち出していましたが、いざサイトに訪れるとそのイメージと一致していなかったのです。
吉村さん ですので、これまでのサイトに足りなかった要素として、ファーストインプレッションで「グローバル」「デジタル」「イノベーティブ」の3点を感じられるサイトに変えたいという要望をお伝えしました。
日本と海外で大きく違うトップページのあり方
——ACOでも様々な企業のグローバルサイトに携わってきましたが、日本と海外の企業で「グローバル」に対する認識の違いが課題のひとつとして挙げられます。
ジェイムズ 日本の企業でよくある間違いは、グローバル基準にするためには、必ず外国人が写った画像を使わなければいけないとか、世界地図を使ったグラフィックを載せなければいけない、という考え方ですね。でも僕らは、最新のクオリティであるか、使い勝手の良いUIになっているかなど、デザイン的な思考・観点から最初にグローバル基準のベンチマークを設定します。多くのクライアント様は、社内ポリシーなどの都合により最新の技術が使えないことが多いですが、まずそれを乗り越えられるようなオープンマインドで取り組みましょう、と伝えています。
吉村さん しかも、先にデザインサンプルを作っていただけたので、イメージも湧きやすかったですね。ちなみに、グローバルサイト構築にあたり、明確なルールはあるのでしょうか
ジェイムズ 厳密に言えばルールはありませんが、ひとつ大きなポイントになるのはトップページの在り方です。日本企業の多くは、必ずプレスリリースをファーストビューに置きたいなどマストな記載情報が多く、結果的にスペースの取り合いになってしまう。一方、グローバルサイトのトップページは、その企業が本当に伝えたいメッセージやポリシーを優先的に打ち出します。気の効いたコピーや動画など工夫を凝らすことで、グローバル・クオリティのコミュニケーションをサイト上で可能にしていますよね。
中野さん 実は、グローバルCEOがデジタル・マーケティングの出身なので、サイトに対する思い入れが強く、後で本人から聞いたのですが、日本語をGoogle翻訳で随時チェックしていたそうです。でも「この表現であれば、グローバルサイトとしても全く問題ない。よくやってくれた」と言ってくれました。
ジェイムズ それは良かった。もうひとつデザイン的な特徴を挙げるとすれば、日本の企業は暗い色を避けがちということ。確かにダークな印象を与える可能性はあるけれど、落ち着いたトーンは信頼感を印象づけられるので、海外のサイトでは積極的に使われています。マクロミルさんのブランドカラーはネイビーブルーでしたが、普通に使うと冷たい印象になるので、強みという付加価値になるよう工夫しながら使いました。
吉村さん リニューアル前に社内のスタッフにデザインを見てもらったのですが、「え、こんなに変わるんですか」とすごく反応が良かったです。それに、MetrixLab社のPR責任者も「かっこいい」「マネしたい」と、外国人スタッフからも好印象でした。
コンバージョン率はトータルで約10%向上
——再上場に合わせたリニューアルでしたが、そのような稀なタイミングからこそ配慮した点などありましたか
中野さん 上場前のPV数が、投資家とクライアント(見込み顧客)で3:7の比率でした。再上場を控えていたとはいえ、投資家に注力しすぎたサイト構成にしてしまうと本来の企業サイトの役割を果たせなくなってしまう。ですから、基本的にはクライアント(見込み顧客)優先という方針でした。
そういった中で、本件の軸である「グローバル」「デジタル」「イノベーティブ」を大事にしたわけですが、大前提として調査会社としての信頼感や専門性はやっぱり守りたいという気持ちもありました。特に専門性に対するアピールが弱かったので、トップページにオウンメディア的に情報を露出していこうと。リサーチ業界の専門性を出そうとすると、とっつきにくいものになってしまうので、なるべく興味を持ってもらえるように。
ジェイムズ 『PICK UP CONTENTS(メインビジュアル直下のバナーエリア)』ですよね。あのような気分転換できるコンテンツが入ると、ユーザーが少し違ったマインドで企業の特性を見ることができるので、設けて良かったと思います。
中野さん 再上場したことなど色々な要因はありますが、コンバージョン率はトータルで約10%向上しました。今回のチャレンジのひとつが、LP的なコンバージョンを取るサービスサイトとブランディングを表現する企業サイトをひとつに合わせるということでした。トップ〜2階層はブランディング、3階層以降はコンバージョンという風に目的を分けながらも融合したいと。ただ、本件を統括されていた満尾さんから「衝撃的なオーダーで戸惑っています」と言われ、無茶なオーダーかなと不安にはなったんです。でも、結果的に非常に上手くまとめてくださった。どのような工夫がなされたのですか?
安田 実は僕らも、御社のオーダーに100%応えられる、という確信はありませんでした。そこで、企業サイトと別途展開されていたサービスサイトの2つを、情報とデザインの両面から整理・再構築してマージさせることを提案させていただきました。
ただ、マーケット担当の方も不安を抱いていましたし、僕らも総合的なブランディングという観点では統一感を出したほうが良いと考えていましたが、数値の保証はできない。結局、クリエイティブとSEOが相容れないのと似ているかなと。SEOに特化するなら必要な情報要素をたくさん入れなきゃいけないので、クリエイティブのレベルが下がってしまう。確かに難しい点ではありましたね。
中野さん トータルではコンバージョン率が増えているので、結果的にはやりたい事が実現できたので本当に良かったです。
今でも「ルールなのでダメです」と言い続けるワケ
安田 テンプレートを上手く活用して、全体の統一感が生まれるように心掛けました。とはいえ、サービス関連は一時的にすごく推さなきゃいけないエリアも出てくるので、そのあたりは別途ユニークなモジュールを作って対処させていただきました。今でもご要望に対して「ルールなのでダメです」と打ち返させていただいているのも、そういった意図があるからです。
中野さん なるほど。言葉濁さず言うと、もう少しモジュールを増やしてほしかったですし、柔軟に要素を組み合わせたいと思っていました。でも、それを許してしまうと内容もモジュールも統一感が出ないので、譲れないポイントだったわけですね。
安田 はい。それをOKにしてしまうと、例えば運用する会社がACO以外の会社になった時に制御できなくなると思うんです。
亀ヶ谷さん 当初は、ACOさんが意図していた全体のトーンを保つとことまで考えが及ばず、メンテナビリティのことばかり気になっていましたが、今の話を聞いて守って良かったと感じます。そのおかげで、僕と別のスタッフがコーディングするときに、決められたモジュールを厳格に守ろうと話しながら作ることができています。まさにパートナーとしてのバリュー発揮していただけたなと思いました。
企業サイトはインタラクティブに企業を理解する場に成長する
安田 今後、企業サイトを通じてデジタル・コミュニケーションを行ってく上で、現状抱えている課題感や挑戦していきたいことはありますか
吉村さん 来訪者に飽きられないよう、クオリティを担保しつつ新しいコンテンツを作っていく必要がありますよね。完成して終わりじゃない、ということを今まさに実感しています。
中野さん 今後はもっと、企業サイトが企業とユーザーの接点となるような位置づけであるべきだ、ということを考えていく必要があると思っています。例えば、弊社では市場調査レポートをまとめたオウンドメディア『HoNote(ホノテ)』を展開していますが、HoNote(ホノテ)が育っていけば企業サイト内のコンテンツを移管していく事もあると思いますし、企業サイト内の有力コンテンツそれぞれがオウンドメディアとして独立してもいいかもしれません。そうなると企業サイトには、会社情報、プレスルーム、サービス説明だけがあればよくなって、詳細は必要になったらチャットボットが全てフォローするという世界がくるかもしれない。つまり、企業サイトはインタラクティブに企業やサービスの内容が理解できる「場」の役割を担うというか。そもそもリサーチというサービスは静的コンテンツだけで内容を理解いただくのが難しい分野ですから、インタラクティブな在り方は避けて通れないと思います。
ジェイムズ 僕も期待しているのが、ボットが受付役としてユーザーとチャットしながら企業理解を訴求していくということ。それが本当に有効的かどうかはこれから見えてくるだろうけど、そのことで各ユーザーがもたらすユーザー体験の精度がもっと上がると思いますから。
安田 各グローバル企業が、常に様々な取り組みに挑戦しているのも、企業サイトの在り方を真剣に模索している現れかもしれません。今後も、一緒に考えていける関係性を築けていけたらいいですね。
吉村さん 正直に「それ、イケてないですよ」と言っていただけたらと笑。
亀ヶ谷さん 今回のプロジェクトは、本当に情報が少ない中で急遽相談に乗っていただき、その場で端的に「こういうところを悩まれているのですね」と言っていただけたことが全ての始まりでした。その時に一瞬で生まれた信頼感と言いますか、その衝撃を抱いたままオープンに向けて一緒に走らせてもらうことできたなと思っています。
理想の企業サイトを通して、マーケティングリサーチの価値を社会に届けていく
再上場前のサイトでは伝えきれていなかった、「グローバル」「デジタル」「イノベーティブ」を軸としたマクロミルのコーポレートメッセージ。しかし今回、その世界観をサイトで体現したことにより、クライアントを含むステークホルダーにそのメッセージを届けることが可能となった。さらに、コンバージョン追求も同時に実現。今回のリニューアルは、理想的なコーポレートサイトに向けての第一歩だ。今後もサイトを通じて、革新的なマーケティングリサーチサービスを発信し、誰もがマーケティングサービスを利用できる社会の実現を目指していく。より多くの企業がマーケティングやリサーチを適切に行うようになれば、世の中にもっと魅力的な商品やサービスが増えていくだろう。
Client
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Macromill
株式会社マクロミル・高品質・スピーディな市場調査を提供する、国内インターネット・マーケティング・リサーチのリーディング・カンパ ニー。市場シェアNo.1の豊富なリサーチ実績とノウハウを元に、お客様のマーケティング課題解決に向けて最適なソリューションを提供する。世界13カ国、34の拠点を展開しており、世界に誇れる実行力と、時代を変革するテクノロジーを統合し、唯一無二のグローバル・デジタル・リサーチ・カンパニーを目指している。
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by Monstarlab Design Journal
Monstarlab Design Journal 編集部です。 モンスターラボデザインチームのデザインナレッジとカルチャーを発信していきます。
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F