- 2017.03.23
好きな銀行はありますか?
こう聞かれて「ある!」と言える人、少ないですよね。来日10年以上のわたしが不満なのは、日本の銀行の店舗対面サービスは素晴らしいのに、オンライン・バンキングを体験すると失望させられることです。FinTech革命によって金融サービスの差別化はより一層難しくなるのに、なぜ銀行のデジタル・コミュニケーションはなかなか魅力的にならないのでしょうか?
そこで欧米の銀行では何が起きているのかを、デザイン視点で調べてみることにしました。
※実際には欧米の主要な商業銀行と投資銀行を広く調査しました。今回はその中から日本の銀行に刺激になりそうな3つを選んでお伝えします。
2007年の金融危機、HSBCの租税回避スキャンダルなどによる、「評判の失墜による多大なる損害」(* 1)が起こったり、他方ではIT業界から破壊的な金融サービスが次々と登場するなど、業界の勢力図を変えかねない大きな変化が続いた十数年。欧米の銀行は、ブランドイメージを再構築する必要に迫られ、銀行や投資銀行、証券会社などの金融サービス企業は新しいデジタル・コミュニケーションに次々と投資していきました。
チャールズ・シュワブ ー 正直でオープン
アメリカの金融機関であるチャールズ・シュワブは、ネット・プロモーターズ・スコア(Net Promoter Score = NPS:企業やブランドに対する愛着・信頼の度合いを数値化する指標)が、当初の-35点から数年間で+35点に上昇しました。(*2) NPSは、日々の業務活動が反映される重要な指標であり、同時に従業員のモチベーションになっています。
同社CEOのシュワブ自身、信頼と責任について動画で力強く語っています。 創業者CEOが人前に出て堂々と話すことは、それだけで説明責任への強い意欲を感じさせます。これは日本に限らず世界の金融機関でもそれほど多く行われてはいませんが、少なくとも他ではできない方法で、シュワブの正直さと透明性をアピールしています。
ウェブ・サイトを見てみましょう。そこには、「透明な価格設定」という約束を宣言すると同時に、顧客からの質疑を充実させることで、オープンな姿勢をアピールしています。金融危機後に多くの金融機関が信頼を失う中、徹底した顧客志向を各所に展開したシュワブは、正直さとオープンをもとに改善を繰り返してきました。
対して日本の金融機関のオープンさへの覚悟はどれほどのものでしょうか?確かに正直でオープンにはリスクもあるし、必要も感じないかもしれません。少なくとも私からみると、日本の金融機関の閉鎖感は世界との大きなギャップに映ります。
時には顧客に向けて問いをぶつけることも、ブランドの大切な役割です。
「なぜこの道を選ぶか」キャンペーンは、自らの人生を問い続けてきた人々を取り上げた短編ドキュメンタリーシリーズ(おそらく本当の話)です。この動画でシュワブは顧客に向け、自らのキャリアを変え、より充実した人生を見つけるべきだ、自分を受け入れ前に進むべきだと強く主張しています。日本では人生の選択でリスクを取るということは推奨されませんよね。ましてや金融機関がそれを薦めることなど考えにくい。でもこれは欧米の金融機関でも同じこと。このコンテンツは、リスク覚悟でコンセプトを伝えることでブランドの差別化につなげようとする意思表明に映ります。
シュワブは、プロボノ(金融業の知識や経験を活かして社会貢献するボランティア活動全般を提供すること)によって、正直な会社になれるようNPOのサポートも積極化しています。これは消費者に向けたブランドイメージだけでなく、社内モチベーション(eNPS: 従業員のロイヤルティを測る指標)にも寄与していることも併せてPRしています。日本の金融機関もこのような活動はされているようですが、自社メディアによるPRに力をいれないのは大きな機会損失になっています。
シンプル ー 共感を呼ぶ
2009年に設立されたシンプルは、デジタル・ネイティブ世代に向けた代表的なオンライン・バンキング・サービスです。
サイト内の「True Stories」コーナーには、シンプルの顧客に関する数十の物語が掲載されています。しかし掲載された記事は、単なる読み物ではありません。
同コーナーに掲載されている記事「Passion Project:アフガニスタン初の女性自転車レーサーが語る、なぜわたしはお金を失ったのか?」(link) では、フリーランスジャーナリストで自動車レーサーであるJayme Moye氏がアフガニスタンに旅行し、女性自転車レースに参加したストーリーを記しています。記事内では、彼女自身がこのプロジェクトにお金を投じて失ってしまったけれど、それでもこれは社会的にとても重要なレースだということを訴えています。
シンプルの顧客は、オンラインバンキングアプリを通してこの “Passion Project”に寄付をすることができます。
このコーナーには、シンプルなターゲット像である若く、自由で、創造的な人々に訴えけかる、多くの人生のストーリーが掲載されています。丁寧にターゲティングすることで、感情的に訴える魅力的なコンテンツを生み出し、ファンが生まれ、世の中に共有される。これでファンが増えて新しい顧客になってくれたら理想的です。この仕組みは多少のコストとリスクを伴うけれど、日本の金融機関でもすぐに実現可能です。もちろん経営陣の理解さえあれば、ですが。
ディスカバー ー 徹底したユーザ体験
多くの金融機関サービスには「ログインギャップ」というものがあります。ログイン前のページはクールで使いやすそうだけど、ログイン後は突然使いづらくなる体験のことです。ディスカバーのオンラインサービスは、体験全体を高品質に保てている好例です。
ウェブ・サイトは不要な要素が削除され、明快でメリハリがあります。
ユーザーは、1つの簡単なログインでさまざまなサービス(銀行、クレジットカード、ローンなど)を利用することができます。これは、多くの銀行が苦労している中で、目指すべき姿といえます。ただしここ最近の欧米金融機関を調べてみると、この問題は急激に解消されつつあります。
「Why Us」コーナーにはディスカバーのメリットが説明され、さらにユーザーのレビューをページの下に公開し、さらにはフィードバックを募集することでオープンさをアピールしています。オンラインでの肯定的なレビューは、顧客が非常に満足しているように感じさせてくれます。いつか日本の金融機関にもユーザレビューが掲載される日がやってくることを祈っています。
「・・・ ディスカバーのクレジットカードサイトを長年使っていた私ですが、こんなにもカンタンで、多機能な体験は初めてでした。」
Review by Rob Berger
好き!と言われる金融機関になるために
3つの金融機関はそれぞれ、正直でオープンなシュワブ、共感を呼ぶシンプル、徹底したユーザ体験のディスカバー、というように強みを持っています。
日本の多くの金融サービスはまだ優れたUIデザイン(ユーザインタフェースデザイン)が依然として金融サービスの差別化になり得ます。しかし欧米の金融サービスは、既にUIデザインによる差別化が難しくなりつつあります。またフィンテック革命で金融サービス競争は激化しています。そこで顧客との深い信頼関係をつくることによる差別化のためにコミュニケーション・デザインの強化が欠かせなくなってきた、という背景がありました。
今回の調査で見えてきたのは、メッセージを強化し、共感を呼び、ユーザ体験を重視する。この3つが今の日本の金融ブランドに必要だということが見えてきました。
情緒的なブランディングは、社内外にファンを増やすことに役立ちます。人々はブランドを信じることができたとき、顧客でも従業員でもファンでありつづけてくれます。ファンは自ら進んで周囲にそのブランドを薦め、最高の人材が働きたいと思うことにつながります。3つの例はそれをよく示してくれています。
References
- HSBC chairman Douglas Flint on their damaged reputation in The Guardian
- Bain & Company on Schwab’s Net Promoter Score
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F