- 2017.09.07
ANA CargoはなぜWEBコミュニケーションに力を入れるのか?
B2B事業でも、動画や記事を駆使して発信する自社WEBサイトを多く目にするようになり、WEB来訪者の共感を呼ぶ感動的なストーリーが次々と生まれています。ではなぜB2Bにストーリーコンテンツが増えているのでしょうか? (関連記事:日本のB2B企業には情緒的コミュニケーションが足りない)
この記事では、世界トップクラスの総合航空物流会社を目指すANA Cargoはなぜコミュニケーション戦略に力を入れるのか、どのような成果を期待しているのかを、インタビューを交えて紹介します。
お寿司、ワクチン、半導体
船便に比べてスピード輸送が可能な航空便は、その特性からさまざまなニーズが求められる。スマホに使われている電子部品、伝染病を予防するためのワクチン、お寿司に使われている鮮魚、毎週入れ替わるファストファッション、新車発表前の試乗車など、私達の生活に直結する多くのものは、航空物流のスピードが支えているのだ。航空物流会社がそのニーズに答えるためには、前例に囚われない新しいアイデアやIT化の加速、オペレーションの合理化など、これまでにない変革を次々生み出さなくてはいけない。
ANA Cargoは、ANAグループの貨物事業を担うべく14年4月に設立。旅客便ネットワークにおける貨物事業だけではなく貨物専用機(フレイター)を保有し、アジアへの物流拠点として沖縄にハブ空港機能を設置。またルフトハンザとユナイテッドとのジョイント・ベンチャーによる国際航空物流網を形成。成長を続けるANA Cargoは航空物流に変革を起こそうとしている。
生産性を高めるために、WEBサイトにもっと仕事をさせる
2012年につくられた旧WEBサイト。中期経営計画の刷新をきっかけとした戦略の見直しを図ることとなりリニューアルプロジェクトは始動した。これまでのフォワーダー(航空貨物代理店)中心の訪問者を想定した旧WEBサイトは機能重視であったが、エンドユーザである荷主企業(航空貨物の送り主)も含めてコミュニケーション対象を広義に捉え、そこに向けた情報発信も積極的に行うという方針となった。現在もWEBサイト全体の運用担当である塚越氏は、当時の状況を次のように語る。
「ANA Cargoを指名してもらうために、私たちのことを世界に発信するコミュニケーション機会がどうしても必要だったんです。当然、WEBサイトは有効な手段だと考えました。」
しかし、リニューアル目的は顧客ターゲットの拡大だけには留まらない。この事業の価値を新しい視点で社内に広げること、ユーザからの問い合わせの質問や相談の質を今よりも上げること、更には社内モチベーションアップと生産性の向上につなげようとする狙いも裏にはあったようだ。
「WEBサイトにもっと仕事をさせたいということです。」
WEBリニューアルで起きる変化の波は、広範囲に及ぶ
しかしプロジェクト計画開始当初には、WEBサイトをリニューアルすることはフォワーダー向けの機能的なサイトのイメージしかなかったのが本音のようだ。ところがプロジェクトが進むにつれて少しずつ、その影響範囲が広いことに気づいていったという。
「WEBサイトリニューアルの提案を受けて、私自身が気づいたんです。もっと魅力的に伝えられることが沢山あるんじゃないかと。」
プロジェクト計画開始から1年以上が過ぎた2017年4月、WEBサイトがリニューアル公開された。しかしそれ以前から、公開を待たずして社内は少しずつ変わり始めていたようだ。それは計画初期にはじまった関連部署が集まるプロジェクト定例会議によって、部門を超えて意見交換や情報が集まり始める。これによってWEBサイトに求められる役割は、当初の想定以上に増えていった。
一般的にWEBの成果は、数値データの変化で求められるものだ。しかしもう一つの大きな変化とは、計画段階を利用して社内横断の場が生まれ、部門を超えた情報交換が必然的に発生するということなのだ。いわば、WEBサイトが横断的プラットフォームとして横串機能を発揮するイメージで、さらにWEBそのものよりももっと広い範囲に変化の波がおきることになる。
WEB以外でも、質と効率が大きく改善
ANA Cargoのリニューアル目標は「ただ運ぶだけではない新しい価値を伝える」こと。しかしそれを伝えることは簡単なことではない。事業につなげるには抽象的になりがちだからだ。そのために多くのことを戦略的に組み上げなけれならない。掲載情報と遷移設計を細部まで徹底的に行うこと、WEBに限らずオフライン広告から社内告知まで一語一句を横断的にチェックすること、社内の協力を取り付けること、毎週の定例会議を効率的に進めることなど、その実行と決断は繊細で複雑、時には大胆に行われる。
「WEBサイトの運営を通して、一つ一つの地味で小さな積み上げが、大きな成果につながるのだと感じ始めています。それ以前は一体どうやって進めていたのか思い出せないくらい生産性が上がっていると思います。」
2017年4月の公開から3ヶ月が過ぎ、担当者の塚越氏のところにには、各部署から様々な相談が集まり始めている。そうなると情報が横断的に把握できるようになり、これまでのコミュニケーションの質と効率が大きく改善された。
社内意識の変化はまだ始まったばかりだ。社員の誇りをもっとバージョンアップしたいという社内の意識が育てば、数字には表せない大きな価値になる。そのためにもWEBサイトが貢献できることはまだ沢山あるはずだ。
量より質のコミュニケーションが、B2Bの販売促進につながる
ANA Cargoはオフラインでの取り組みも増やしている。
塚越氏 「展示会への出店や大使館イベントとのタイアップ等、マーケットとのコミュニケーションの機会も増やしてきています。その方々にWEBサイトを案内すれば、そこにはANA Cargoだけの価値を伝えるという循環ができます。地道ですが、とにかくしつこくやり続けています。」
B2Cである旅客事業と比べ、B2B事業がターゲットとする対象人数は少ない。だからB2Bは多くの人に知られる必要はなく、むやみにWEBでアクセス数を追う必要もない。特定の知ってもらうべき人に確実に届けることがなによりも大切なのだ。そのためにもオフラインの出会いの場との連携が欠かせない。
今後はSNSや記事配信など、自社メディアを最大限活用したWEBメディアプラットフォームとして成長させていく予定だ。ANA Cargoが選ばれるためのマーケティング戦略はより立体的になり、コミュニケーションを軸に益々力強く展開されることは間違いない。
オンラインで「気になる存在になる」ために
今回の事例のように、WEBサイトを中心にしたB2Bのマーケティング事例はそれほど多くはありません。WEBサイトは貢献度を証明しにくく、B2Bの販売促進には適さないと考える人が多いからです。
しかしB2Bのオフラインの販売促進活動はそもそも効率が悪いものです。それはB2C以上に、B2Bの購買の決め手になるのは対人関係にあるからです。
あなたが顧客の立場だったときのことを思い出してください。各社の性能にそれほど大差がない場合、頭では企業間の合理的判断による取引であるべきだと理解をしながらも、潜在的には「この人だから買う」という理由で最後の決断をしたことがあったはずです。お互い人間ですからそれは自然なことです。
販売促進活動を今よりも効率よくしたいなら、オフラインの間を埋めるようにオンラインで「気になる存在になる」ことを目標にしてください。そうすればこれまで販売促進活動や営業活動を助け、さらには社内の意識変化にまで波及するはずです。そのために2年から3年計画の、大胆で緻密な計画を練ることからはじめることをお勧めします。
References
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by Yoichi Kurashima
東京芸術大学美術学部建築学科卒業。設計事務所を設立。代表取締役退任後、A.C.O.創業と同時に入社し、2002年同社代表取締役に就任。クリエイティブディレクション、マーケティング、コンサルティング担当。
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F