- 2018.02.16
トレンドと手法に翻弄される、日本のオウンドメディア
こんにちは、A.C.O.Journal編集部です。日本企業でオウンドメディアといえばどのようなものになるでしょうか?
広告連動したサイトや企業情報の発信、採用サイト、社員ブログ、B2Bなら営業をバックアップするカタログサイトなど、オウンドメディアは携わる業務によって幅広く活用されています。しかしながら、日本企業のオウンドメディアはあまり良い方向に進化しているように見えません。口コミ施策やデジタル広告、マーケティング自動化システムなど色々と手を出しているだけの、トレンドと手法に翻弄されているオウンドメディアを沢山見かけます。
今回は、トレンドや手法ということではなく、ユーザの心理をうまく捉えているなと感じる海外企業の事例を取り上げます。
今更ですがよく考えてみると、オウンドメディアほどこんなにも自由なアイデアを実現できるメディアは他にありません。こんなにも顧客との関係を作り出せるメディアはありません。訪問者の心は動かされ、アイデアひとつで思わず行動してしまう、それが一番大切なことなだと改めて教えてくれる、3つの事例です。
CASE 1 ユーザの心が動く瞬間を、つかんで離さない ー Simple社の例
Simpleは、WEBリテラシーの高い層をターゲットにしているイギリスのオンライン銀行です。
オウンドメディア内のコーナー「True Stories (本当の物語)」では、お金にまつわるドキュメンタリー記事が掲載されています。このコーナーの中では、貯蓄のことをファウンディング(資金調達)と呼び、活動のことをパッション・プロジェクト(情熱計画)と呼んでいます。困った時のために貯金するのではなく、人生でやりたい事のための貯蓄しよう、というメッセージを込めてドキュメンタリー記事は展開されています。
その中の記事を一つ紹介しましょう。ある女性ジャーナリストが、アフガニスタンで初開催される女性限定自転車レースの取材に行こうとする話があります。自費だから利益にはならないけれど、それでも意義のある取材だから、そのために貯蓄して取材に行って意義を伝えたい、という物語。
この記事を読んだ人はこんなふうに思うでしょう。
「私も、情熱で行動したい!」
Simpleはその瞬間、寄りそうように語りかけてきます。
「あなたのパッション・プロジェクトのために、ファウンディングを始めませんか? Simpleを使って今、この瞬間から。」
ところでもう一つ。記事終わりには、よくある「口座開設をする」ボタンではなく、「パッション・プロジェクトに3000ドル」ボタンがあります。その先には3000ドルを目指して積み立てるための口座設定に、一気にジャンプします。この誘導が素晴らしいのは、ユーザの熱が冷めないまま今すぐ始められるところ。心を動かされたまさにその瞬間が、提案できる絶好のタイミングだということなのです。
ユーザの心を掴むポイント
- ユーザに深く共感されるコンテンツを創る
- ユーザの熱が冷めないように設計する
CASE 2 ユーザも思わず行動したくなるCSR ー Johnson & Johnson社の例
Johnson & Johnsonのオウンドメディア Health&wellnessは、ヘルスケアについてのアドバイス記事を連載しています。
そのひとつに「今年のインフルエンザの予防接種について知るべき5つのこと」という記事があります。記事を読み進めたユーザが「ワクチンは重要なんだな」と思った絶妙のタイミングで、ワクチンが買えない人への寄付を促すメッセージが現れます。「ワクチンを摂取したくてもできない人がいる」という気付きと同時に、同社のCSRに興味を持ってもらおう、というわけです。
しかしそれだけでは終わりません。その先にはクラウドファウンディングサイトにリンクされ、そこで今すぐ寄付できる、というわけです。
気軽に行動しやすいように、達成目標額は250ドルと低めの設定です。Johnson & Johnsonのことはページ下部にロゴとメッセージが載っているだけで、ことさらにCSR活動をアピールはしていません。記事を読んでからクラウドファウンディングに訪れたユーザは、これがJohnson & Johnsonの活動の一環であることを既によくわかっているし、企業姿勢を示す上でも露出が控えな方が効果的だとしているようです。
CSRをPRするということは、ブランドリスク回避や安定株主の確保にもつながるという、リターンの大きい活動にもかかわらず、ほとんどの日本企業がそれを活かしきれていないようにみえます。世界では、一方的に情報を発信するオウンドメディアではなく、企業と個人が共に活動する事例が次々と登場しています。
ユーザの心を掴むポイント
- CSRを「伝える」のではなく「共に行動」する
- 外部のサービスと連携して参加の敷居を下げる
CASE 3 ユーザが喜んでメールを教えたくなるWEBマガジン ー P&G社の例
最後に、ここまでやるか!な事例を紹介します。
P&Gは、「P&G everyday(P&Gのある毎日)」というオウンドメディアをもっています。コンテンツは育児や家事など、自社商品に関連した内容です。
「ストレス解消に最適なエクササイズ」という記事を見てみましょう。記事の最後に「エクササイズで汗をかいたらこの洗剤で洗濯してくださいね」というコメントと共に、実店舗で使う割引きクーポンが添えられています。そんなのよくあるじゃないか、と言われそうですが、記事から実店舗へのクーポンを発行する例は珍しく、新鮮でした。
さらに、ユーザーの「損はしたくない心理」を利用して、サイト内で集めた「クーポンバスケット」、「今月はクーポンを全部使うと75ドル節約になりますよ」などといったメッセージが表示されます。ユーザは「これは使わないともったいない」となりそうですね。
ただ、クーポンは印刷が必要です。例えば電車の中でクーポンを集めても、家に帰ったら印刷のことは忘れてしまいそうです。そこでP&Gは、クーポンのことを忘れないようにメールで知らせる機能を用意しています。そうすればユーザはあっさりと、自然に、喜んで、メールという個人情報を企業に提供してくれます。P&Gはオウンドメディアをうまく活用して個人情報を得られる有効な仕組みをつくろうとした、ということです。
ユーザの心を掴むポイント
- 「損したくない心理」を利用する
- メール取得には、それなりの対価を用意する
共通しているのは物語、行動、寄り添い
3つの事例に共通しているのは、心が動く物語を配信していること、すぐにでも行動できる仕組みがあること、そしてユーザの人生や生活に寄りそうよう存在であろうとする適度な距離感、です。それがあればユーザは、自らの意志で気持ちよく行動してくれることでしょう。アイデアさえあれば、企業はまだまだ価値あるオウンドメディアを創ることができるし、大きな資産になるのです。
UXデザインから、オウンドメディアのアイデアは生まれる
ところで、このようなオウンドメディアのアイデアはどこから来るのでしょうか?これらの例には全て、UXデザイン(ユーザがその記事でどんな心理の変化があり、どのような行動を欲するのかを設計する)のプロセスが明らかに含まれています。つまり定量と俯瞰の視点ではなく、情緒と仮説の視点を大切にしているということです。
オウンドメディアは20年前から当たり前のようにつくられてきたメディアですが、時代の変化と共にその役割りは益々広く、深く、複雑になってきています。言い換えればそれは、オウンドメディアにはまだまだ可能性がたくさん詰まっている、ということでもあります。
A.C.O.ではオウンドメディア発祥期から、UX視点のオウンドメディア戦略企画力を磨いてきました。これからもその知見を活かし、よりレベルの高いオウンドメディアを提供していきます。
References
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F