- 2015.12.10
わたしたちは、企業ブランドサイトの成長をサポートするため、グローバル環境で起きている変化を常に察知する「グローバル視点の企業ウェブサイトのあり方」の研究を続けています。例えばここ半年間で抽出した成果を挙げると、
・グローバル企業は、Instagramを定性調査に利用している
・グローバル企業のCSVは、企業ブランド形成の中心となる傾向にある
・人間中心のストーリー記事の増加は、自己実現主義と関係が深い
といった具合です。
緊急対応とは、なんのため?
今回は、最近の企業不祥事が絶えない中おこなっている「自社オンライン・メディアにおける緊急対応の観測」について。ここでいう緊急対応とは、不正発覚や事件・事故など、意図的な行為か否かにかかわらず、企業にとってマイナスとなる情報の拡散を、最小限にとどめようとする対応のことを指しています。今回はフォルクスワーゲン(以下・VW社)の、オンライン・メディアにおける緊急対応について観測調査の結果をご紹介します。
ちなみに観測調査といっているのは、このような場合のサンプルが突然発生しすぐに消えてしまうために、報道されたタイミングでなるべくリアルタイムで観察しているためです。あとでさかのぼっても情報を削除していることもあるので、まばたきせずに見続ける必要があるということです。
ところで、そもそもオンライン上での緊急対応は何のためなのでしょうか? 以下に主な任務を列挙しました。
・報道メディアに正確な情報を配布
・株主への報告義務
・既存のお客様への理解
・広く社会一般への理解
日本企業ではこれらの情報を可能な限り早く、サイトトップやIRページなど、必要と思われる各所に配置するのが一般的でしょう。大手企業であれば、そのためのガイドラインが用意されているところも少なくないはずです。ところが、VW社のオンラインメディア対応は日本企業と少し異なっていました。
2営業日後に、CEOがYouTube用に会見を配信
フォルクスワーゲンのディーゼル問題発生時の自社オンライン・メディア緊急対応は以下の通りでした。
9/18
独VWがディーゼル車排ガス規制を不正に逃れていたと米環境保護局が発表。
9/22
CEOの会見映像をYouTubeにアップ。これ以降、各国現地法人がSNSでの謝罪説明を開始
9/25
新CEOの記者会見をYouTubeと各国Facebookで配信する一方、グローバル本部Facebookでは何も触れず。
9/22
IRページに通常使用されているテンプレート枠に説明と謝罪を掲載。
9/28
米国ローカル対応の特設サイト『VOLKSWAGEN DIESEL INFORMATION』公開をし、Facebookと米国ローカルサイト『VW.com』で告知する一方、グローバル本部『volkswagen.com』の特設サイト設置などの対応は一切なし。
私たちが観察を続ける中、意外と感じる行動がありました。それは、今回の騒動に関して公式サイトTOPでの説明や謝罪は何もせず、SNSと下層の一部コーナーのみで情報発信をしていたことです。さらにその後を追うように各国現地法人社長や幹部が、twitterやfacebookでコメントを発信しています。発信媒体と情報発信を時系列で並べてみると、日本企業のあり方とは大きく違いました。
SNSで情報発信をするとユーザにはどう映るのでしょうか。すでにフォローしているユーザーにとっては、自分の友人に混じってVW社がタイムライン上に登場し、動画と文章で説明を重ねているように見えるでしょう。
その印象は、企業自身がユーザーに向かって「積極的に説明をしている」と映る可能性があります。もちろん、ユーザーの中にはマスメディア関連の記者も居るはずです。
VW社がSNSを第一にして配信するということは、SNSはフォロワーと向い合い情報を積極的に届けることができる最も有効な手段、という判断をしているのです。社内で混乱が続いているであろう局面において、各メディアの特性を見極めた上で配信順番や内容を管理しているのかはわかりませんが、少なくとも公式サイトのTOPには何も発していないのです。
このVW社の対応には不誠実な対応だとする専門家もいるようです。言われれば確かにそうとも言えるかもしれません。しかし現時点では、それが危機を最小限に留めるための手段として正解だったのかどうか、今後の経過観察を続け、後日振り返ってみることしか正しい答えはないように思います。
SNSを使わず謝罪をする日本企業の事情
ところで、日本企業の危機対応はどだったでしょうか。ここ数ヶ月で複数社の観測を行ったところ、どの企業もサイトTOPの巨大な告知枠などで謝罪を行っていました。スピードとしては、報道開始から告知まで平均で10営業日前後。事情がどうあれVW社に比べれば非常に遅い印象をもちます。
他方、どの企業においてもSNSの活用はほとんどありませんでした。SNSを活用すればより早い情報発信が可能にも関わらず、活用している会社がなかったのです。
これはなぜでしょうか?
日本企業は、リスクを回避しようとするあまり、ユーザに呼びかけられる効果的なツールとしてのSNS活用に消極的なようにみえます。SNSはカジュアルなコミュニケーション文化だから、企業の利用には向かないという理解がされているのかもしれません。B2B企業には有効ではないという意見を耳にすることもあります。ただ、これもまた感覚値でしかないように思います。また、グローバルSNSの場合は、英語の壁という理由も大きいとお思われます。
SNSで情報発信をするとユーザにはどう映るのでしょうか。すでにフォローしているユーザーにとっては、自分の友人に混じってVW社がタイムライン上に登場し、動画と文章で説明を重ねているように見えるでしょう。
その印象は、企業自身がユーザーに向かって「積極的に説明をしている」と映る可能性があります。もちろん、ユーザーの中にはマスメディア関連の記者も居るはずです。
いずれにしても日本企業は、SNSでの発信が消極的な代わりに、TOPページヘの巨大な謝罪バナーが一般的です。これは日本特有の謝罪文化によるところが大きいでしょう。ところがこれをグローバル視点でみると、日本企業は謎めいた閉鎖的な企業だと印象づけてしまう場合があります。とりあえず謝ることで済ませようとしているのではないか、説明せず逃げているのではないか、SNSで発信しないのはユーザからのコメントが怖いのではないか、という印象を与えているとすれば、このままで良いとは言い切れません。
緊急対応には、SNSの積極活用とブランドイメージの気遣いを
大手企業であれば、緊急対応時の掲載場所を特定するようなガイドラインを設けているでしょう。しかし、現在のウェブ・メディア環境の変化を正確に捉え直すことを忘れてはいけません。つまり、現在のオンライン・メディア環境は、SNSを中心に情報拡散しているという事実を正確に理解することが必要なのです。
また、欧米企業の緊急対応では、多くの場合TOPページに謝罪文などを一切掲載していません。これはなぜか?行き過ぎる深読みかもしれませんが、ブランドイメージの低下を最小限にとどめて欲しいと願う既存オーナーや株主、利用者、取引先への配慮があるのではないかと見ています。
これからはSNSの活用方法のひとつに、緊急対応ということを加えるべきです。同時にブランドイメージを極端に減退させないようなガイドラインとべきです。ご担当の方はぜひ、現在のガイドラインを今一度見直してみてください。
謝罪はそこそこに、リアルタイムに説明を続ける姿勢を
日本人の感覚ならば、オンライン動画やSNSでドライに説明することが不誠実だと感じる人もいるでしょう。ただグローバル視点ではそうとは言い切れません。グローバル市場では、謝罪するだけではなく、次にどうしていくかを迅速かつリアルタイムに説明し続ていくことが求められます。すでに全世界で展開する企業でも、本当の意味でグローバルだと言える企業は非常に少ないのが現実です。
不謹慎な提案かもしれませんが、危機対応こそ、真のグローバル企業になり得る機会と捉えてみてはいかがでしょうか。
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F