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グローバルリサーチ

日本のB2B企業には情緒的コミュニケーションが足りない

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コミュニケーションに力を入れるB2B企業が増えてきた

こんにちは、A.C.O.Journal編集部です。

私はこれまでトヨタや三菱重工、リクルート、サンスター、JCBといった日系企業のオンライン・ブランディング戦略と実践的なプランを、クリエイティブディレクターという立場で提供してきました。

今回は、広くグローバル・コミュニケーションを研究していくなかで気づいたことについて。それは、グローバル企業ではB2B企業もB2Cのようなコミュニケーションをとる傾向が強まっているということです。その一方日系のB2B企業は、自らメディアを積極的に活用しようという姿勢はそれほど強くありません。

そこで、B2B企業のコミュニケーションを体系的に理解するため、事例を交えてお伝えします。

ブランドイメージをコントロールしたがるグローバルB2B企業

これまでB2Bのサービス・製品を販売するには、製品の特長や価格、競合との違いなど、合理的判断を前提にしてアピールすることが自然なことでした。一方でB2Cのコミュニケーションは、感情を惹きつけるために、ユーモア、欲望、共感といった情緒的なアプローチをしてきました。これはまるで絶対であるかのように、長い間疑われることはありませんでした。

しかし、企業コミュニケーション研究で透けて見えるのは、従来のやり方を踏襲しない、新しいB2B企業コミュニケーションが増え続けているということです。

たとえばシーメンス、Maersk、バイエル製薬は、自社製品やサービスを紹介する記事や動画に「物語フォーマット」を採用しています。このフォーマットの特徴は、製品のことは触れず、スタッフやパートナー、消費者などの利害関係者の登場させ、人間の目を通して情緒的な物語をつくり、その企業を理解すること以上に読者の感情に入り込んできます。それはまるで質の高い雑誌記事や、短いドキュメンタリーのような読後感があります。

Siemens Stories

風力発電にまつわる物語をシーメンスの自社サイト内で紹介

Goldman Sach's New Orlean's documentary

ゴールドマン・サックスがニューオリンズで何をしてどんな成果を得たかを伝えるドキュメンタリー

またゴールドマン・サックスとJPモルガンチェースは、 米国内において投資をした案件の紹介にとどまらず、その成果をより印象的にするため、数字を交えつつ感動の物語にしたてあげています。日々努力を続ける人々の夢や、奮闘に焦点を当てたこの物語は、ウォールストリートの冷酷で邪悪なイメージとは違う、社会との強い結びつきこそ一番大事にしているようなブランドイメージを全面に押し出しています。(もちろん信じてもらえるかはわかりませんが・・・) これらの企業サイトに一度でも訪れた人は、この会社のこれまでの行いを多少なり許す気持ちになるかもしれません。

B2Cを売却・撤退しB2Bに集中するIBMは、若者を中心に多くの人にIBMの存在が目にとまるよう、ユーモアとアーティスティックな表現を用いてSNSに投稿しています。これは社外だけではなく、若い社員に向けて自社の革新性と企業カルチャーの浸透を図っていることが見て取れます。

JPMorgan's Shedd Aquarium webpage

シカゴの水族館とJPモルガンの関係がわかるドキュメンタリー

さらにFacebookやTwitterといった企業アカウントの多いSNSだけでなく、InstagramやTumblrなど幅広い層に向けてタッチポイントを設置しています。若者に向けてSNSで見つけてもらい、記憶に残るような戦略が見て取れます。

これらの企業の共通点は、個人の発言が強くなる社会を受け入れつつ適応するために自社のブランドイメージを自らコントロールしたいという力が働いているということです。

IBMblr

ユーモアとアーティスティックな表現を用いたIBMによるTumblr

B2Bの購買動機は情緒的??

これまで紹介してきたブランドは、典型的なB2B企業とは違い、B2C企業と非常によく似た方法でユーザとの関係をつくろうとしています。ではなぜこのように振る舞おうとするのか? SNSとスマホによるものだということは容易に想像がつきます。ただしそれだけでは論理的に説明がつかないので、もう少し深く掘り下げてみることにします。

ここでGoogleが公開している興味深い調査レポートを紹介したいと思います。Googleは2013年にリサーチ会社と共同で以下のテーマで調査を行いました。

B2Bの購買動機は、本当に合理的判断だけで行われるのか? 情緒的な購入理由はないか?

Google report

調査対象はB2B企業3,000人の購買担当者。その調査結果を記事にして公開しています。この調査でGoogleが驚いたことは、購買理由に情緒的関係があっただけでなく、その企業間の関係はB2Cよりも強固なものであったことでした。

私たちが調査した9ブランドの中で、7ブランドは50%の平均値を越えていました。これはB2Bの顧客は自社の消費者よりも、自社の物品供給業者やサービス提供業者と情緒的に結びついていることが明らかになりました。

Googleは、この理由は極めて単純であるとしています。個人消費者の場合、もし製品が気に入らなければそれを返品することができるので、購入リスクはとても少ないけれど、企業取引の場合はそれと比べてはるかに大きなリスクを背負っているからだと結論づけています。つまり、企業間取引での間違った購買判断は企業業績に影響を与えるため、自らの仕事さえ失うリスクがあります。だからこそ企業の購入においては、情緒的な人間関係によって安心感を得る必要があるというのです。

さらに製品を比較する際、その優劣はなかなかわかりにくく判断しづらい場合が多くあります。もし優劣がわかったとしても、もっと高いお金を払ってもらえることは稀です。だからこそ情緒的な関係を築くことで企業は差別化を図ろうとする、というわけです。

これまでのイメージでは、企業はつねに合理的で論理的なものだと思い込みがちです。しかし企業とは、あなたや私のような感情的な人間が集まって成り立っています。そしてプライベートな買い物ほどではないにしても、B2Bでの購買動機は情緒的コミュニケーションに強く影響を受けているといえます。

企業でも、弱点や素直さといった人間味を

There is No B2B or B2C: It’s Human to Human: #H2H

『B2BもB2Cも存在しない、Human to Human(H2H)』これはマーケティング専門家ブライアン・クレイマー氏の著書のタイトルです。同氏は「SNSがマーケティングの全てを変え、新しい段階に入っている」と述べています。新しい段階とは、企業は2Cや2Bへ訴えるのではなく、「もはや人対人の関係しかない」ということだです。

本の中でクレイマー氏は 「企業が発信するコミュニケーションは、不自然な言葉遣いになっている」と主張しています。たしかに業界用語や省略語、内輪ことばなど、伝わりにくい言葉で溢れかえった公式文章をよく目にします。企業は「ビジネストークを捨て、もっと自然な言葉で伝えるべきだ」と同氏は言います。これは言語に関してだけではありません。企業といえども弱点や素直さといった人間味をあらわにすること求めているのです。

H2H

感情的な関係を忘れてはいけない

私がみなさんに提供したいのは、この『弱点や素直さといった人間味をあらわにする』という発想です。そして『H2H』は、こうした発想を後押しする主張だと思います。私たちはブランドがそのような発想に対して、特別な情緒的要素を見つけることによって、伝えることを手助けしようとしているのです。

Googleの調査とクレイマー氏の本を参考に、私はこのアイデアを今後のプロジェクトに積極的に応用するつもりです。とはいっても、B2BとB2Cが必要なくなりH2Hアプローチだけになるかというと、そういうわけではありません。H2Hは別物として存在するからこそ、より意味があるのです。

大事なことは、たとえ会社デスクにいようと家のソファにいようと、企業も個人も、発信側も受信側も、すべては感情的な人間と人間の関係づくりだということを、決して忘れないことです。

日本企業は勘違いされやすい

グローバル展開する日本企業が必要以上に株価が下がってしまったり、契約交渉が途中でストップしてしまうような事例がよくあります。それは日本人はとても真面目で誠実だというイメージを世界中の多くの人が持っている一方、集団になると何を考えているのかわからない『怖さ』を感じている人が多いからという面もあります。

だからこそ、企業は単に情報開示をするだけでなく、もっと自社の人間的な姿をウェブ・サイト等を通して少々大げさに発信することが必要です。時には失敗や弱みを素直にさらけ出しながら、外に出ていく機会をつくりましょう。そういった機会を積み上げればあなたの会社はますます世界に受けいられるはずです。

もし詳しく知りたいなら、どうぞお気軽にご相談ください。日本語で対応しますよ。

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by Monstarlab Design Journal

Monstarlab Design Journal 編集部です。 モンスターラボデザインチームのデザインナレッジとカルチャーを発信していきます。

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