- 2024.08.21
こんにちは。 Design/Art Director の天野です。代理店系クリエイティブでの経験を長らく積んだ後、自社サービスデザインを経て、今はモンスターラボでリサーチ・新規事業創出・プロダクト推進を担っています。
現在は、アイデア出しに長く関わってきた自身の経験を活かして、アイディエーションが含まれるプロジェクトに多く関わっており、ウェビナーも担当しています。ウェビナーでは書籍に書かれているような一般的な知見だけでなく、学びの活動に参加して得られたことや自身の経験から出てきた個人的な考え方も語っています。
また、プロジェクトの中では全体のプロセス設計を担っていますが、普段から人が集まって話をする「会議」も、コミュニケーションや意見交換・意思決定など目的と時間に応じてデザインしていたり、その会議を含んだプロジェクト全体のプロセスを考案しています。
最近、昨年度出版された有名な著書「選択の科学」の著者であるシーナ・アイエンガーさんが書かれた「THINK BIGGER」という書籍が社内で話題になっていたので、改めてこの書籍で紹介されていた内容に沿って、「アイデア出し」「会議」「ワークショップ」それらを含めた「プロセス設計」について自身の考えをお伝えしようと思います。
「THINK BIGGER」についての全体的な感想
「THINK BIGGER」では、最良のアイデアを出すためのプロセスを定義していました。大部分はこのステップの説明やそれに関する研究の紹介になります。
STEP1 課題を分解する
STEP2 望みを比較する
STEP3 箱の中と外を探す
STEP4 選択マップ
STEP5 第三の眼
はじめは問題解決・イノベーション・ワークショップ・ファシリテーション・デザインシンキングについて学んだり実践している私にとって、既知の理論をベースにしている内容も多く、それらが集結されているように見えました。しかし、しっかり読み込むと、既知の理論をベースに「大きな最高の発想」を得るためのアイディエーションのあり方やアイデア出しのポイントが整理されている点が特徴で、非常にバランスよく一つの方法論にまとめ上げてられているとわかってきました。
また、誰にでもわかりやすい理論の証明方法が選択されている点もよかったです。
個人的にはこの書籍が話題になって大勢の人が読むことで、自身の経験から生まれていた考えは間違っていなかったと自信が持てました。著名な書籍に記載してもらうことで学術的に研究証明されたので説明がしやすくなると思いました。
例えば、普段私がアイディエーションやワークショップについて語っている以下のようなことがあるのですが、この書籍によって証明できるのでどんどん引用していこうと思います。
・アイディエーションもワークショップもあくまでプロジェクトの一部であること
・結果を出すためには事前分析などの前準備によるインプットが大事
・アイディエーションのワークショップは目的によって設計すること
・アイディエーションにワークショップは必須ではないこと
・結果を出すためには前準備が必要なこと
・その後の検討・整理が重要であること
・アイディエーションやワークショップは、本当なら一回で終われないこと
「THINK BIGGER」のプロセスで実践していること
ここからは著者であるシーナ・アイエンガーさんの言葉を紹介し、それに沿って私が考えたり実践していることを紹介します。
”イノベーションは古いアイデアと新しいアイデアの組み合わせ以外の何ものでもない” P41
こちらはご本人の言葉ではなく「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」(実業家ジェームズ・W・ヤング)、「新しい知とは常に『既存の知』と別の『既存の知』の『新しい組み合わせ』で生まれる」(経済学者ヨーゼフ・シュンペーター)と元々多くの人が定義しているものです。私自身、実際のところ頭の中に無いものからは何も生み出せないと思っており、自社ワークでもリサーチでインプットを豊富に用意することを推奨しています。また自らインプットの準備をすることでアイデアが湧いてくると思っています。
”箱の「中」と「外」で考える” P58
別の分野の成功事例を集め、組み合わせて新しいアイデアにできないか考えること=アナロジーは、他の役職の方にとってはわかりやすくはないのですが、積極的に組み込むようにしています。人の行動を抽象化して捉えるUXデザイナーは普段やっていることだと思いますし、実は多くの人もやっているのではないでしょうか。具体的には、競合から徐々に範囲を広げて全然関係ないようなジャンルでも成功事例を集めて、その良いポイントを分析して言葉にします。そこに自社らしさとユーザー課題を組み合わせて新しいアイデアを出すようにしています。
”ブレインストーミングで最高のアイデアは生まれない” P67
代理店の狭い会議室の蛍光灯の下でクリエイティブアイデアを延々と考えた経験から、ちゃんと準備されていない会議やアイデア出しは私は否定派です。目的に対して最適であればブレインストーミングを使いますが短時間に出せるのものは方向性、視点、アイデアの種のレベルだと思っています。
また、”ブレインストーミングでは誰かの見方に引きずられてしまう”と言いますが、私は単に「声が大きい人」のせいだけではないと思っています。何かを一つ議題にすると人はその流れに沿って会話を進めてゆくものだから、当然そこに話が偏ってしまいます。そのため、ファシリテーションによって議論の流れをコントロールして、リフレーミングし、複数の意見を出して議題検討できるよう進行しています。
ちゃんとファシリテーションを実施したワークショップでも、短時間や大人数でアイデアはまとまる訳がないのも事実です。会議は、「他者にはどんな意見があるのか知って、自分の視点を検討していくための、視点を交換する場」や、グループダイナミズムを利用する場として取り組むように心がけています。
”ブレインストーミングは、ひとことで言えば情報の洗い出しと共有でしかない” P86
これは本当に言葉通りで、情報の洗い出し・相互理解が目的のミーティングだったり、勝手知ったるメンバーが今ある情報から初期仮説レベルのアイデアを出したい程度であれば実施は問題ないと思います。ただ、下準備なしに短時間で出したアイデアは往々にして再考する必要がある場合が多いです。実際に、世界的に大きな課題を考えるためのワークショップは半年や一年かけて行われています。
私が普段推奨するやり方は以下です。
・ワークショップは個人ワークと併用
・短時間ワークショップの後、宿題にして持ち帰ったり、最後は誰かがしっかり整理検討して仕上げる
・どうしてもその時間内にアイデアを出さなければいけない場合、個人ワーク時間を作る
・事前に検討してきたものを持ち寄ってから意見交換でワークショップを開催する
”アイデアの量より質が大事” P110
アイデアを出す際に、網羅性を考慮したり、ある程度の量を出してみるトライは必要だと思います。ただ、あまりに筋違いの良くないアイデアが出ていた場合は評価の時間が無駄になることもありますので、私は質を担保できる問いを設けてアイデアを出すようにします。
一方で、デザインシンキングで粗削りでもアイデアをたくさん出すというやり方は、方向性を確保して網羅性を埋めるための行為だと理解してます。
出てきたアイデアについては、無駄になることがあっても「今は本筋で無理でもいつか使えるものになるかもしれない」可能性があったり、「これはないよねという事例になる」ので、止めることはしていません。
”領域内で戦術を探す・領域外で戦術を探す・領域内と領域外の戦術を掛け合わせる” P304
アイデア出しに関する領域については、『箱の「中」と「外」で考える』で事例収集の取り組みを紹介しましたが、ここでは要素の掛け合わせについての取り組みをご紹介します。
準備した要素の組み合わせを変えて強制発想法を繰り返していきますが、最初はメインの王道のアイデアを出し、だんだん外の領域に進出して、最後はランダムで掛け合わせるようにしています。ランダムは結構難しいので生成AIを使ってプログラムを組んで出したりもしています。
「THINK BIGGER」のプロセスから取り入れたいこと
最後に、書籍の内容で取り組んでいなかったことや新しく学んだことも紹介します。
特にやっていなかったなと感じたのが、STEP2の「望みを比較する」でした。
ターゲットユーザーの声を用意したり、実行する自身の心の声(その案をやる気)を選考基準に入れることはありますが、その案に関わるステークホルダーの希望を洗い出す活動はやっていなかったため、一度取り入れてみたいと思いました。
また、STEP1の「課題を分解する」については、意識的にはやれていなかったので、紹介されていたフレームワークや5つ前後という数の指定(「選択の科学」の数に近いですね)は、非常に使いやすく、ぜひ活用していこうと思いました。
まとめ
ここまで、世界的に話題になっている「THINK BIGGER」の内容を引き合いに、私が実践しているプロセス設計を紹介させていただきました。
世の中の様々な研究は他社の研究理論をベースにしていたり、シーナ・アイエンガーさん自身もこの方法で研究をされており、改めてこの世のアイデアは古いものと新しいものの組み合わせ・既存のものから生まれて紡いでいくものだと証明されたように感じます。
これはネガティブなことではなく、人間の活動も、他者の活動の結果をもとに紡がれてどんどん進化している図がイメージされます。音楽なども、進化し・ミックスされ・リバイバルされ・歌ったり踊ったりされており、人間の活動はそうやっていいところを取り入れて少しずつ変化しながら変わらないところと変わったところがあると気づきました。
この紡ぎ方が良くないとどんどん悪くなっていくため、サステナビリティ・第三者・社会的目線・倫理観が加わることで良い方向へ紡いでいくことができるのだと思います。
これからの世の中はAIが活用され人間にできなかったスピード感で課題解決の進化が進んでいきます。そんな世の中では、アイデアを出すこと自体よりも、それが正確でどれだけ有用であるか、何をもたらすのかが重要になってきそうだと想像でき、アイデアプロセスを考えることがまた楽しみになってきました。
References
- THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法:コロンビア大学ビジネススクール特別講義(シーナ・アイエンガー 著, 櫻井祐子 翻訳)
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by Kazuki Amano
大学卒業後、Webや広告業界でアートディレクターとして働く。自社事業の担当としてサービス開発から携わるようになり、「UX」に目覚める。近年は、UXを活用したクライアントの新規事業創出や、サービス、プロダクト開発などに従事。2022年5月、UXデザイナーとしてモンスターラボに入社。HCD-net認定人間中心設計専門家。
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F