- 2016.07.14
【対談】鈴木慶太朗×田渕将吾×小山秀一郎×沖山直子
Web業界のホンネを、アートディレクターのみなさんに語っていただきました。
一見、華々しく映るWeb業界だけど、実は「ツラい!」ことが盛りだくさん。この対談企画ではA.C.O.Journal編集長の安田翼がホストとなり、自分の足で立っていながらも、その大変さを身にしみて理解する人々を招き入れ、酒を飲みながらその魅力と過酷さについて語り合う。今回のゲストは、SHIFTBRAIN Inc.・鈴木慶太朗さん、AID-DCC Inc.・田渕将吾さん、株式会社博報堂・小山秀一郎さん、そして、A.C.O.Inc・沖山直子の4人。
前編では、竹の棒で叩かれたり食事の時間を管理されたりといったツラい下積みの話から、アートディレクターならではの教育の話などを語っていただいた。続く後編は、アートディレクターになる人の考え方、そして日々のインプット方法などを探る。
ロジカルにデザインを語る。アートディレクターの説明責任
ー アートディレクターになると、多くの企業の場合デザイナー以上にデザインに対する説明責任が求められると思うのですが、そこで苦労したことはありますか?
鈴木慶太朗(以下・鈴木) 僕の場合、デザインをはじめた当初からクライアントと一緒に作っていくことが多かったので、自分の作るものを説明できるようにすることが自然と身についていたのかなと今では思います。
むしろ、説明可能で、人が感覚的にいいと思うものやイカれてると思うものを作ることにはいつも苦労するし、そこは今でも苦労していますね…。
田渕将吾(以下・田渕) 確かに。いいアイデアを出すことの難しさの方が強いかも知れないですね。
小山秀一郎(以下・小山) 僕はむしろちょっと逆で、魅力的に話ができるようにするためのデザインしているような感じなんです。自分で100%理解して、これがいいと言い切れるようなプレゼンを考えて頭の中で組んでますね。ただ、デザインに相当自信を持たないといけないことになるんですが。(笑)
沖山直子(以下・沖山) 仕事のできるアートディレクターやデザイナーは論理的にデザインをしますよね。
全員 (うなずく)
沖山 私は画をつくるのが楽しくなってくることが多くなりがちで、ロジカルに設計する部分と感覚的につくる割合でいうと、後者の方が多いなぁと思っています。なので「説明責任」という言葉には恐れおののき、かなり苦労していますね。
ただ感覚的にやっているうちに、なぜこういうデザインにしたいんだろう? と自問自答すると、「あ、そういうことか」と理解できることが多くなりましたね。そういうのを繰り返していくことで、理解できないことはやる意味がないものに感じるようになりました。説明責任が生じたことで、いい意味でアウトプットの質が変わったと思いますね。
展示・イベント・キュレーター・映画…。アイデアの源泉はあらゆるところに
ー 皆さんはやはり説明することはかなり重要視されているんですね。では、先ほど少しだけ話に出ましたが、アイデアについてのお話をお聞きしたいです。アイデアをひねり出す苦労や、そのための日々のインプットなど意識していることなどはありますか?
田渕 インプットの話でいうと、僕はWebデザインポータルサイトを運営しているのと、CSS Design AwardsのJudgesをやらせてもらっているので、人より多くかっこいいサイトを見ているとは思います。
ただAID-DCC Inc.はサイト制作だけをやっているわけではないので、デバイス関係や広告イベント、インスタレーションなどもチェックするために、積極的に美術館やイベントなどに足を運んでますね。
ー すごいですね、幅広い。
ただ、そうやってアンテナを張っているつもりでも、同僚には自分よりすごいアイデアをだす人が歳の差関係なくたくさんいるので、ブレストでは負けた思いをすることが多いんですよ。
鈴木 すごいなぁ。僕は情報をあとで読もうと思って保存しているんですけど、結局で読めなくてたまってしまうことがよくあります。(笑)でも逆に、アイデアや情報の見過ぎで、自分で作ったものが前に見たことがあるものに似てるような気がすることがありますね。
小山 それありますね。
鈴木 どうしてもプロジェクトがすき間なく続くと、新しいアイデアがなくなっていく気はするよね。毎回いいものを作らないといけないっていう十字架が重いことも正直なところかな…。(笑)
小山 一通りデザインを経験したことで、オリエンの段階でなんとなく見えてくるようになってきたかなと思いつつ、今イケてるデザインはどういうものかというのは常に気にしていますね。オリエンで思い浮かべたものが、ずれている時ももちろんあるので、レファレンスを整理してレベルの高いデザインを横において作業するようにしていますね。
田渕 いいデザインを見ることは大事ですよね。
沖山 私は、テクノロジーは日々めまぐるしいスピードで進んでいくので、自分で最先端にいることは早々にあきらめて、いいソースやキュレーター的な人を探すようにしていますね。ただ、グラフィックや写真は好きなので、ノンストレスで吸収できるかな。
鈴木 この人がシェアするのは間違いないって人いますよね。田渕君のポータルサイトとか、前回のwebつらに出ていた村松さんのMUUUUU.ORGとかも有名ですよね。
沖山 いいですよね。
ー 最近見たもののなかで、これは良かったみたいなものって何かありますか?
田渕 最近、映画も展示物とかも大人向けだなと思うものが多い気がしませんか? 例えば『デザインあ』とかも、超おしゃれでかっこいいけど、子供以上に大人も楽しいじゃないですか。
沖山 あれはむしろ、子供も楽しめるものなんですか?
田渕 展覧会は楽しめると思いましたね。空間に物体があって、体験できるっていうのはどんなものでも大体楽しいですよね。ただ、テレビで毎週毎週見るかというと全然別で、僕らはアルゴリズムとか、これが分解されたらこうなるんだみたいな目線で楽しめますけど、子供はそうじゃないですからね。
鈴木 『デザインあ』で面白いのが、小さい子供の方がよく見るんですよ。あれって言葉がなくて、音と絵で構成されているんです。だから言葉のわからないような子供にとってはすごい魅力的にうつる。カットも短く3〜5秒くらいで切り替えていて、それが時々スローになったりするので、ぼーっと見るにはすごくいい。子供がテレビの画面にロックされるんです。うちも1歳半の下の子が見てるんですけど、受動的にずっと見るんですよね。
小山 僕は最近だと『her』が面白かったですね。
(筆者注:スパイク・ジョーンズ監督・脚本によるSF恋愛映画『her/世界でひとつの彼女』)
鈴木 『her』面白いですよね。僕、恋愛ものダメなんで最初は興味なかったんですが、周りのデジタル関係の人がみんな面白いって言うんで見たんですけど、くっそ面白い! 最初は期待してなかったんですけど、30分くらいしたらもう釘付けでしたね。
田渕 僕見てないんですけど、デジタル系の話なんですか?
小山 人工知能のOSに恋をする話なんですよ。あれ、アートディレクションもすごいんです。批評とかインタビューを探せば出てくると思うんですけど、デニムを一切出さないで、全員がハイウェストのパンツにシャツをタックインしているんです。
なぜかというと、デニムを出さないことでちょっと未来感が出るのと、ハイウエストでファッションの流行が一周したあとみたいな感じを出してるんです。このディレクションは本当にすごいなと思いましたね。映像のアートディレクションってこういうことなんだなぁと。
鈴木 その話は知らなかったなぁ。それ聞くともう1回みたくなるね。
小山 音声でUIを全て作るっていうのがそもそも新しいじゃないですか。作中では、カメラが付いたスマートフォン的なデバイスを胸ポケットに入れて、音声入力でOSを動かすんです。そうすると主人公の見た世界がOSも見ることができる。ほんとちょっと先の未来感なんです。メールの返信とか通知とかも全部OSがやってくれたり、どう返すか相談してくれたりするんです。あと絵としてもすごくきれいなんですよね。
鈴木 あーわかる! たまにあるじゃないですか。カットが粗いとか、飛んだとか、繋がりおかしいとかが気になる映画って。『her』はそれが気にならないんですよ。だからストーリーにちゃんと入れるんですよね。
ー 映画の話が出たので、みなさん今後こういうのをやってみたい! こうなりたい! みたいなものってありますか?
鈴木 時々作家性みたいなものに憧れることはありますね。色を出すと言うか。でも出しちゃいけないのがアートディレクターなんだよね。
沖山 そう、求められたものに対する最高値を出すのがアートディレクションだもんね。
小山 確かに。だから僕が作家性を出さなきゃいけないときはタッグを組むようにしてます。僕がやっているHipHopユニットの『中小企業』では、パートナーの中山君がその役割を担ってくれているんですよ。彼はKANA-BOONのグッズを作ったりしてるんですけど。彼の感覚があるからやれているといっても過言じゃないです。
僕は仕切りとかディレクションとかはできるんですけど、ぶっ飛んだビジュアルを作るみたいなのはできないので、そこは彼に任せるようにしてます。楽曲も役割分担をしていて、彼がラップを作って僕がトラックを作るんです。トラックはロジックで作れるのに対して、彼は思いの丈を言葉に乗せるっていうアーティスト的感覚でやっているので。僕はそれをディレクションするんです。
鈴木 なるほどね。原作のある映画も近いものがありますよね。状況描写だけじゃなくて、状況の間に例えば血が吹き出る描写とか。ああいうのは監督というかアートディレクター的な感覚ですよね。
小山 絵的に、みたいなのですよね。
鈴木 根本としてはストーリーがあるわけで、その流れの中でどれだけ衝撃を与えていくかみたいな。本当は要らない要素なんだけど、それをいれることで緊張感を表現するみたいなのはありますよね。
ー 下積み時代や苦労などはありつつも、皆さんあまりツラい話を出さないようですが、実際どうなんでしょう? 今苦労されていることはないですか?
小山 いやー、ツラいもなにも、文句なんて何もないですよね。
沖山・田渕 そうそう。
鈴木 アートディレクターなんて皆勝手にやってるよ! って感じだね。
小山 それぞれの事情も環境もありますからね。皆それぞれの場所で好きにやってるんだと思いますよ。自分のやりたいこととやるべきことときっ抗させて最適化を目指すのがアートディレクターの役割ですから。
鈴木 おーいいこといったね。まさにそうだよね。
沖山 私、アートディレクターという仕事に対しては文句ないもん。
小山 アートディレクターと名乗った以上、結果は出さなきゃいけないですからね。そこにコミットすることには全力ですから。不満なんて、ないですよ!
日々のさまざまな場面で得た経験を、惜しみなくデザインの現場で発揮するアートディレクター。苦労はあるけれど、そこにツラさはない! と語れるということは、彼らがまさにアートディレクターとしての職能にマッチしているからだろう。今後も、更なるクリエイティブで私たちを驚かせてくれることを楽しみにしたい。
皆様、ありがとうございました!
Guest
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鈴木 慶太朗(SHIFTBRAIN Inc.)
1984年生まれ。東京出身。2児の父。大学で経済学を学びながら、グラフィックデザインを学ぶ。制作会社数社を経て、現在はシフトブレインでチーフデザインオフィサーとして勤務。デジタル領域のアートディレクションやデザイン、UXやUIの設計をベースに活動中。Awwwards, CSSDesignAwards審査会メンバー。
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田渕 将吾(AID-DCC Inc./S5-Style™)
1982年生まれ。AID-DCC Inc.にてアートディレクション、Webデザイン、空間デザイン、フロントエンドエンジニアリングを従事するかたわらS5-Style™の名義で個人プロジェクトを細々と展開中。主な個人プロジェクトに、Webデザインポータルサイトなど。CSSDesignAwards審査会メンバー
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小山 秀一郎(博報堂)
1987年生まれ。横須賀出身。紙のマス広告制作を経て、バスキュールに所属。デジタル領域のアートディレクションに従事したのち、博報堂に入社。現在はインタラクティブのアートディレクターとして勤務。個人名義でHipHopユニット「中小企業」としても活動中。
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沖山 直子(A.C.O. Inc.)
グラフィックデザイン事務所を経て、現在に至る。A.C.O.ではアートディレクション、フォトディレクション担当。ブランドを意識したビジュアルガイドラインなどに従事。
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中目黒BAR IT(店舗提供)
グラフィックデザイン事務所を経て、現在に至る。A.C.O.ではアートディレクション、フォトディレクション担当。ブランドを意識したビジュアルガイドラインなどに従事。
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F