- 2016.12.20
Web業界の第一線で活躍している外国人達が苦労を語り尽くす!外国人つらいよ座談会
一見、華々しく映るWeb業界だけど、実は「ツラい!」ことが盛りだくさん。この対談企画では自分の足で立っていながらも、その大変さを身にしみて理解する人々を招き入れ、酒を飲みながらその魅力と過酷さについて語り合う。
今回のゲストは全員外国人。オーストラリア人のHengteeさん(96 Problems)、カナダ人のRoyさん(rivalschools)、イギリス人のMarkさん(TACCHI Studios)、イギリス人のJames(A.C.O.)の4人。
様々なバックグラウンドを持った人たちが文化の違いに悩まされつつも、あえて日本を選んだ理由、日本に感じている課題、デザインに求める違い、ワークライフバランスまで。 Web業界の第一線で活躍する外国人達がその苦労を語り尽くす。
ー まずは簡単に自己紹介をお願いします。
Hengtee オーストラリア人のヘンティといいます。今は96 Problemsというストーリーをシェアするアプリを開発するベンチャー企業で編集者・ライターをしています。また、東京のクリエイティブをテーマにしたポッドキャストの発信もしています。
James イギリス人のジェームズ・ボウスキルです。2001年に日本にきて、A.C.O.というデザインコンサル会社でクリエイティブディレクターをしています。インターネットやアプリを通じてコミュニケーションをブランド化することに焦点を当てた仕事をしています。
イギリスにいるとヨーロッパに行く人が多いのですが、私はアメリカやオーストラリアのような英語圏でなく、すごく遠いところに行きたかったのでアジアを選びました。日本にはずっと魅力を感じていて、クリエイティビティという面でも何かが違うと感じていました。東京しかない、と思っていましたね。
デザインの仕事をしたかったのですが、来日当初は英語教師をしていました。英語教師の仕事で3年ビザを取ったので、最初の1年半は英語を教えながらいろんな人と出会い、貯金をし、日本を知ることに集中し、その後デザイン会社に転職しました。
Roy カナダ人のロイ・フサダです。2015年に日本にきて、UXデザインコンサル会社を立ち上げました。数名の契約社員やパートナー企業と共に、UXやデザインに関するサービスを提供しています。マーケティング、ブランドコミュニケーション、デザインが主な業務内容です。
私は生まれてから海外に住んだことがなかったので、自分を試したい気持ちもあり、何も決めずに日本に来ました。 日本に来て何をするか明確な計画はなかったのですが、クリエイティブなことをしたいと思っていました。今は毎日やりたいことができて、そういう環境に自分を置くことが大事だと思います。
Mark イギリス人のマークです。デジタルプロダクト会社TACCHI Studiosの経営をしています。東京のクリエイティブのためのCANVASというプロダクトを作っていて、将来的には他の都市にも広げていきたいと思っています。デザイン、テクノロジー、ビジネス関連のものには目がないです。
イギリスで高校の先生をしていたのですが、何か新しいことがしたくなり2007年の夏休みに一ヶ月ほど日本に滞在しました。文化の差と、安全さ、居心地の良さがすごく印象的で、イギリスに帰るフライトが辛くずっと日本にいたいと思っていました。帰国した瞬間から、また日本に来る計画を立てていましたね。笑
来日後は、日本を楽しみながらリラックスできて簡単に仕事をしたかったので、最初の1年半から2年くらいは英語教師をしていました。そのあとは、日本で最初に発売されたiPhone 3Gを手にしてできることの幅の広さに驚き、ビジネスの可能性にも気づき、アプリを作って売ることを仕事にしました。
Hengtee やりたい仕事を見つけるのは難しかったですか?マークさんは割とスムーズにいってますよね。
Mark 運が大きかったと思いますが、そういう運を求めて外に出向くことは意識的にしていました。デザインとテクノロジーに対する情熱があったからだと思っています。
Hengtee クライアントはバーで見つけたんでしたっけ?
Mark そうなんです!ホーケン・キングという方が最初のクライアントだったのですが、渋谷のBカフェで知り合いました。隣に座っていた彼が仕事について聞いてきたので、「英語教師ですがこういうのに興味があって」と作っていたアプリを見せたら、ちょうどアプリのバグを直してくれる人を探していたらしく、バグを直したり新たに機能を加えたり、といったことが最初の仕事でした。良い機会を与えてもらいました。
3.11の後も同じようなことがありました。あの日どうしたらいいかわからないながらも家にはいたくなかったので、渋谷センター街のバーに友達何人かと行ったんですよ。電車が止まっていたので渋谷から出られず、携帯の充電が切れてしまった人がたくさんいたのですがちょうど私はMacBookを持っていたので、「充電したい人はUSBを繋げて充電して良いですよ」と呼びかけたらその時いた一人にすごく感謝されて、その2週間後には彼と仕事をしていました。そういうことが何度もあるんですよね。 いままでのクライアントを見てみると、問合せから仕事をすることになったのは2社だけで、ほとんどが紹介でした。ネットワークがいかに重要かを感じさせられます。
Hengtee クリエイティブな仕事に関しては、顔を出すことが重要ですよね。特にアートやイラストレーションとかいった自己表現はみんなが良いと思ってくれるわけではなく、いろんな人に見せて、良いと思ってくれる人を探すことだと思います。
Mark そうですね、名刺の渡し方とか、そういうビジネスエチケットは課題にはなりません。そもそも外国人と働きたいと思うようなクライアントですから、そういうエチケットを気にする人は少ないように思います。
日本の働き方の問題点 誰と話すべきか、誰が意思決定者なのか
–日本に感じている問題点は?
Roy 日本企業と働いていて大変なのが、担当者が上司を気にしてなかなか決断に至ってくれないことです。日本の文化だと思うのですが、そこにどう働きかけてどう考え方を変えてもらうか、自由にやらせてもらえる環境をどう作るかが鍵だと思います。
James 意思決定のプロセスに関しては日本では良く聞く話ですよね。決断までに時間がかかるし、最後の承認を得るまで何も決まりません。途中問題がなくても、最後にトップの人間が何か違うと言えば、ふりだしに戻されます。マネージメントクラスの人に承認を得るのは、特に大企業は困難ですね。可能な限り上の人と話すこと、ミーティングでも機会があれば伝えることが重要だと思います。
Mark 意思決定ができる人に理解してもらうのは課題です。こだわりが強かったり、エゴが邪魔をしたり。現代のデザインプロセスで重要なのは、わからないことに立ち向かって、学ぶべきこと、試してみるべきことがあることを認めることだと思います。
それでもやはり、従来からの方法と違うと抵抗がある人がほとんどです。皆さんがどう思われるかわからないですが、中間層〜上層部の人に売り上げに直結しないことに費用を使うべきと伝える際には、いつも考えさせられます。一例ですが、「Reserach」というと、ただ外に出して人と話すことをイメージされることが多いので、「Evidence-based Design」という表現をして、「リサーチ」という言葉は使わないようにしています。小さな表現の差でも違ったりするんですよね。
James 確かに、会議に出席している人たちが誰なのか把握することがまず大変ですね(笑)人が多くて、誰が何をしている人なのか。
大きい会議だとクライアントとこちら側を合わせると20人くらいになることもあります。でも、大抵真ん中にいる全体の4分の1がメイン。サイドに専門的な人たちがいてたまに発言しますが、残りの何人かはどうして参加しているのかわからない(笑) 毎回会議に出席している人が多いんですが、プロジェクトが終わってから(考えたら一言も喋らなかった人がいたな)と思い返すこともありますね。
Roy でも東京だけではないと思いますね。特殊なことがあるとすれば、北米では「Time is Money」という考えがありますが、ここではないように思います。時間はお金とはあまり関係なく、いくらでもあるような。
James 確かにそうは思ってなさそうですね。
Roy 締め切りの延長ってあまり嬉しくなくないですか。クライアントに2週間延びたよ!と言われても、あまり。
Hengtee 時間に関するトピックは面白いですね。他にも時間に関する話題で何か思いつくことってありますか?
James 時間の管理はしっかりするよう意識はしています。社内の打ち合わせでも同じです。いくらでも長くできてしまいますからね。私は今年の春までイギリスに3年間帰っていて、リモートで働いていたのですが、日本と8−9時間の時差があったので、東京の16-17時の会議に間に合うようにイギリス時間の朝8時には仕事を始めていました。彼らが寝るまでの数時間に全てを終わらせなければいけなかったので、短い時間でできる限りのことをする良い練習になったと思っています。全てオンライン、リモートでやることはクライアントにも好評で、そうすると必然的に短時間でやらなければならなかったのですが、うまく回ってましたね。
Mark 私たちも最近はSprint形式(アジャイル開発手法の一つ)でやろうという傾向があり、1-2週間でプロジェクトを終わらせます。そうすると必然的に効率を考えて働くようになりました。「あまり結果に影響しないことは気にしない」「選択肢に迷っているということはリサーチが足りない」という結果にすぐいたります。また、良い選択肢が2つあるという状況でもディベートやフィードバックを重ねて早く決断を下すようにしています。
James Sprintをする時は、1つのプロジェクトに集中してやるんですか?それとも複数を同時に進めてるんですか?
Mark 開発チームはほとんどのプロジェクトがSprint形式なので、1つのプロジェクトに1週間集中して働きます。デザインチームについてはどう進めるかまだ検討中です。開発のSprintと同時にデザインを進めるメリットはあるのですが、邪魔な時もあるので。ただ現状としては、ラッキーなことにプロダクトの開発がメインなので、デザインなしで開発を進める形でうまくやってますね。
マーケットの需要に合わせたユーザー体験とデザイン
–日本に十数年間住んでいる中で、何か気づきや変化はありましたか?
James 2003年、私が引っ越してきた当時は英語のサイトから最新のトレンドやテクノロジーについて学び、自分のものにすることで他の日経企業との差別化ができていたのですが、SNS(Facebook/Twitterなど)が出てきてからはその強みはなくなってしまいましたね。今英語のメディアで話題になると、ものの数時間で日本語になってます。市場が均一化してきたというか、日本語の世界と英語の世界のギャップは確実に狭くなってきていると思います。
Mark 業界にとってはいいことですよね、私たちにとってはそうとも言えないですが(笑) 過去数年のスタートアップの盛り上がりは東京にとっても日本にとっても良いことだと思います。デザイントレンドやメソッドが業界を発展させたと思いますね。
2、3年前だったらUXなんて聞いたことある程度の人がほとんどだったのですが、昨日行われた新宿のUXイベントには200人以上もきていました。日本はまだこれからだと思いますが、徐々に浸透はしてきていると思います。大企業でも専門チームを渋谷とかに別オフィスで組成したり。車メーカーや他の企業もデジタルに関心を持ち始めています。
–日本、もしくは東京におけるデザインに面白いトレンドはありますか?
Mark 具体的なトレンドは思いつかないですね。全世界でも思いつかないですが。
James そうですね、欧米とアジアのギャップがなくなったことによって、面白い差が見られなくなったと感じます。全部似通ってきてしまいましたね。昔は日本語のサイトは全体的になんとなくクレイジーだったように思います。
以前であれば、大手広告代理店がインパクトがあってインタラクティブなことをやろうとグローバル規模でのフェスのようなアイデアが出てきましたが、そういったエッジがなくなってきたような気がします。日本だけでなく全体的に企業が冒険しなくなっているように思います。
Mark 差別化できる要素がビジュアルデザインでなく与えられる経験だということに企業が気付いたのではないでしょうか。ネット上のマーケティングとは違ってくるかもしれませんが、デジタルプロダクトにおいての差別化は、どう見えるかでなく、どういった機能があるか、使い勝手がどうか、ユーザーにとってどんなメリットをどんなに早く提供できるか。
私たちもプロダクト開発にあたり、初期段階では特に、ビジュアルでなくユーザビリティを重視するのであまり華美なものは作りません。シンプルに青と白の二色で、単純なボタンがあるだけでもよしとします。使い勝手が良ければビジュアルの重要度は低いです。もちろんプロダクトにもよりますが、段階を経てはじめてビジュアルについて考え始めます。マーケットを定めるのが重要ですね。
Hengtee デザインが同一化してきているという話がありましたが、デザインでもUXでも、文化的な面を感じることはありますか?
Mark 日本、アジアの文化メッセージのスタンプがありますが、あれはデジタルプロダクトの世界に大きな影響を与えたと思います。絵文字もそうですが、コミュニケーションの一環としてLINEがスタンプを導入し、今ではコミュニケーションプロダクトのほとんどがスタンプやスティッカーを導入しています。その前の絵文字などは、日本の文化だと思いますね。
James 新鮮ですよね。欧米ではシンプルが一番良いアプローチとされていて、なんでも削ぎ落とそうとしますが、スタンプのように何かを足すということによって実はとても楽しくなるし付加価値となる、感情を与える。バランスが大事だと思います。日本のネットショッピングのサイトとかは目が痛くなりますから(笑)
Hengtee そうですね、この話題になってから考えていたのですが、ウェブサイトごとの差が以前ははっきりしていましたが、あまりなくなってきましたよね。
James 一般的に日本の顧客は情報量が多い方を好み、欧米ではその逆といいます。シンプルであるのが良いと自分が思っても、マーケットの需要は違って情報量が多い方が良かったりするので、必要なのはバランスですよね。
Mark デザインは良くないですが、そこじゃないっていうのが面白いですよね。プロダクトのストラクチャが良いから顧客が離れない。使い勝手が悪くても、最終的に得るプロダクトの価値が高ければユーザビリティレベルの低さは許されるということがわかります。
Roy 日本語のインターネットでは欧米スタイルを真似たものが多く見られますが、真似で完成になるのではなくて、ここから更に発展していくと思います。良いところを取り入れながら、日本的な面もキープしつつ、クールになっていくんじゃないかな。
James ニコニコ動画でもそういう意味では似ていて、ビデオにコメントが映るというのは珍しいですよね。そういうような面白いアイデアは欧米の発想ではなかなかないと思います。ビデオにテキストが入るという意味では、日本のテレビも字幕が多いですよね。
Hengtee 動画で人のイイネが見える機能は、同じ方向に進んではいるものの若干違うメッセージ性を持っている気がします。コーヒーが面白い例ですが、日本でドリップコーヒーが生まれて、ブルーボトルの従業員がアメリカに持ち帰ったことですごい人気を集めて、日本に逆輸入されて初めて、あまりコーヒーに興味がなかった一般の人がコーヒーを飲むようになったんですよね。
外国人ならではの苦労が飛び交った前編(いや、意外とポジティブ)。後編では社内外の課題について話しています。
Guest
-
Hengtee Lim(96 Problems)
オーストラリア人。Writer and editor。96 Problemsで編集者とライターとして勤め、medium.comで短編小説を書いています。
-
Roy Husada(rivalschools)
カナダ人。ux professional。 14年以上UI/UXデザインと商品やビジネスプロデュース、リーダーシップの経験。消費者とコーポレートブランドのためのデザインソリューションを提供します。クライアントはMotorola,Danone, Symantec, Nike and Toyotaなど多数。
-
Mark McFarlane(TACCHI Studios)
イギリス人。Director & Android, iOS developer。 東京渋谷にあるTacchi Studiosの創業者、ディレクター。テクノロジーとデザイン思考でクライアントと一緒に問題解決をしています。サイクリングと美味しい食べ物が大好き。
-
James Bowskill(A.C.O.)
イギリス人。Creative Director。2001年から東京に在住、2013-2016年の3年間はロンドンに住みながら東京とオンラインでリモートワークを推進。グローバル企業のクライアントが多く、デジタル領域のコミュニケーション戦略をサポートしています。emotion(人間的情緒)と function(循環機能)のバランスを大切に考えている。フィットネスやDIY、子供達と遊ぶのが楽しみ。
-
KAKULULU(店舗提供)
Monstarlabで一緒に働きませんか。
UI/UXデザインに関するご相談や、
案件のご依頼はこちら
-
by Monstarlab Design Journal
Monstarlab Design Journal 編集部です。 モンスターラボデザインチームのデザインナレッジとカルチャーを発信していきます。
- Share this article:
- 【後編】ここが変だよ!外国人つらいよ座談会 〜社内外の課題〜…
- 【前編】ここが変だよ!外国人つらいよ座談会 〜来日編〜…
- 【後編】オウンドメディア編集長つらいよ座談会 デジマラボ×ジ…
- 【前編】オウンドメディア編集長つらいよ座談会 デジマラボ×ジ…
- 【Vol.2 ロジカルなデザイン・アイデア編】アートディレク…
- 【Vol.1 下積み・教育編】アートディレクターつらいよ座談…
- 【Vol.2 孤独・将来編】フリーランスつらいよ座談会!モリ…
- 【Vol.1 体力・お金編】フリーランスつらいよ座談会!モリ…
- 【Vol.3 お金編】社長つらいよ座談会!草彅洋平 × 野間…
- 【Vol.2 採用・教育編】社長つらいよ座談会!草彅洋平 ×…
Recommended
Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F