- 2015.10.26
「お金」に関するホンネを、社長自ら語っていただきました。
Web制作会社のほとんどは、お客様からの発注=受託で成り立っているというもの。大企業とは違いクライアントと近い距離で仕事ができるため、相手の要望を深く理解できたり、成果物に対して喜びを分かち合えるなど数多くのメリットがある。しかしその一方で、常に発注があるわけでもなく、内容や金銭面でも厳しい状況を突きつけられることも……。
一見、華々しく映るWeb業界だけど、実は「ツラい!」ことが盛りだくさん。この対談企画ではA.C.O.編集部がホストとなり、自分の足で立っていながらも、その大変さを身にしみて理解する人々を招き入れ、酒を飲みながら受託会社の魅力と過酷さについて語り合う。
今回のゲストは、株式会社東京ピストル・草彅洋平さん、株式会社レターズ・野間寛貴さん、ワヴデザイン株式会社・松本龍彦さん。全3回に渡って、業務形態も世代も異なる3者が、経営者の立場からそのホンネを激白!!
——みなさん良い感じに酔っ払ってきたと思います。その勢いに任せて、それぞれの事業における「お金」の部分で苦労されていることを教えてもらえたらなと。
草彅洋平(以下・草彅)-
僕の会社のスタッフは、自分がやりたいことを具体的にイメージしている人が多いですね。ただ収支が非常に甘い。僕は意外と仕事はきっちりやるタイプなので、お金も細かいことにもいちいち口を出しがちなんですが、それだと担当者の情熱を邪魔しちゃうから、現場からフェードアウトして半歩引いた状態で見守っていますね。要は投資家ですよ。
松本龍彦(以下・松本)-
スタッフがスターばかりだと、そうならざるを得ないというか。
草彅-
仮に僕が作ったビジネスモデルをそのままやってくれと言っても、きっとやらないと思うんですよ……。
松本-
そういうものですか(笑)。野間さんは、自分が先頭に立ってクリエイティブをやりたいとは思わないんですか?
野間寛貴(以下・野間)-
あまり思わないですね。経営とディレクションとその他作業は、それぞれバランスを取ってという感じです。
草彅-
若い人たちの中には「お金を稼ぐ」ということにあまり興味がない人っていませんか?
野間-
確かに、僕らのような立場に比べたら意識が薄いかもしれませんね。
草彅-
僕なんていつもお金のことを考えていますよ。最近の若い子と仕事をすると収支がまったく考えられていないことが多くてビックリします。社員にも、そうした単純なことが分かってもらえない子がいるので、なぜ会社をやるのがバカバカしくなるときもありますなあ。
- 全員
-
ははははは(笑)。
経営者だからこそ苦労する「お金」
野間-
そういった草彅さんのお金に対する意識とか手売りしている事実とか、社員のみなさんは知っているんですか?
草彅-
はっきりと伝えるようにはしていますが、社員にとっては所詮人のお金なのでなかなか理解できないでしょうね。僕らは実際にお金を払っている立場だから焦ったり考えたり当事者という意識がある。社員に対しては、その当事者であるということをどう認識してもらうか。
松本-
会社員であるうちは、そういう部分の意識って変わらないと思うんです。独立してお金の管理も自分でやって、そこで初めて気づく部分もあるから。なので、逆に会社員なのにお金のことを考えすぎるのも違うのかなと。
野間-
だからこそ、ある程度は会社のルールに沿ってもらうわないといけないという気持ちもありますよね。
松本-
ですね、例えるなら家族に近いイメージです。一緒に住んでいるので守ってもらえる部分はあるけど、みんなに合わせる部分もある、みたいな。
草彅-
例えば、社員側から「給料を上げてほしい」とか「社宅に住みたい」とか不満が出てきますよね。そういうことに応えてあげて、結局すぐに辞められたら、なんのためにお金を出したのか意味が分からなくなる……。
野間-
やっぱり個性が強い人だけじゃないですし、ある程度レールが敷いてあったほうがやりやすいんだな、と思う部分もあります。
松本-
独立することが全てではないですし、お金の心配をせずに作ることに専念できる環境を望んでいる人もいますから。
草彅-
僕の会社って、野球でいえば自分も含めて全員が4番打者。たまに監督の僕も打席に立つみたいな……。
松本-
そういう会社も稀なので、逆に突っ走ってほしいですけど(笑)。
ベンチャー、中小企業のメリット・デメリット
——社員のコストが上がったとしても、給料を下げるわけにはいかないですよね。みなさん、そのバランスはどうしているんですか?
松本-
会社員の場合は上限を決めてしまって、もしもそれ以上欲しいのであれば、自分でやるなりプロジェクト単位で支払いましょうと伝えています。パフォーマンスの高いフリーランスの人は実務だけお願いすればいいけれど、社員となるとそこにマネージメントも加わってくるのでコストが上がる。
野間-
高い給料を求める人を雇うには、そもそも会社規模が大きくないと難しいですよね。
松本-
ベンチャーや中小企業のメリットって、クライアントと直接仕事ができたり、自分の責任でどんどんもの作りが出来たりすることですよね。だから、単純にお金を稼ぎたいのであれば、スタートアップや上場企業を選んだほうが正しいんですよ。だから僕自身も、そういうことを丁寧に説明していますね。
草彅-
本当に同じこと言いたかった!お金が欲しいなら他に行った方がお互いにとって得だからね。
松本-
入る難しさはあるかもしれないけれど、新卒で1000万円貰えるような企業とかあるわけだから。っていうか、草彅さんずっと社員の愚痴ばっかり言ってますね(笑)。
——では、そろそろ最後の締めといきましょうか。現状から将来を見据えた時に、経営的に難しいなぁって思うことってありますか?
草彅-
未だにブレイクスルーが無いこと。面白い制作の仕事がただやりたくてはじめた会社なので、上場を目指しているわけでもない。だから、いまだにいろいろな事業に手を出してフラフラしていて。なんていうか、ビジネスモデルが下手くそなんだと思いますね。初手はどんな事業も早めに手放したほうが良かったと反省しています。
野間-
クリエイティブな仕事って、年間の売り上げがある程度から決まっていますしね。
草彅-
そうそう。今の形態を続けるのであれば、2〜3社が集まって大きな会社を作ったほうがいいというか。40代以降の人生っていうのは、持っている資産を使って仕掛けないとダメじゃないかって。
野間-
例えば、どういう会社と組めばいいと考えているんですか?
草彅-
うちの強みは編集力なので、ぜんぜん業態が違うシステムとかWebが凄い強い会社とか。僕は自分のブランドや会社のイメージには、それほどこだわっていませんからウェルカムですよ。みなさんはどうですか?
松本-
僕は、モノ作りも会社経営も両方とも好きですね。独立して12年くらい経ちますが、中盤の頃までは会社やスタッフのためを思ってやっていた。でも、人のために独立したわけじゃないなと思って、あらためて自分の好きなようにやりたいと思ったんですよ。それは好き勝手やるという意味ではなく、自分の好きなことのスタンスをはっきりさせようと。たくさん働くけど、たくさん休みたい、社員が成長するのも嬉しいけれど、自分自身もワクワクすることをやっていきたい、とか。
野間-
なるほど。僕もそういう部分に関しては、理解できる部分がありますね。
ツラいこともあるけれど、好きなことをやり続けられる魅力もある
松本-
そういうことを10年以上やってきて考えたときに、更にもう10年以上やりたいと思えたんですよ。夢は黒川紀章のように、70〜80歳でも現場にいてプロジェクトの途中で亡くなるみたいな(笑)。ただ、クリエイティブもビジネスも好きだから、違う人と会社をやることに関しても可能性はぜんぜんある。そして、手売りなど、ビジネス部分が聞けた『TOmagazine』の話は、リアリティがあって、すごい興味深かった。
草彅-
ありがとうございます。でも頑張って僕もいろいろな出先に持って行って手売りしているのに、社員から「わざわざ一冊一冊売って回るより書店に卸した方が効率的だ」なんて言われるのって本当に死にたくなりますよ……。野間さんは将来どんな風に考えているんですか?
野間-
あまり具体的なことは考えていないです。当座は今のまま続けてくってことですかねえ…
松本-
レターズって、らしさのあるWebに特化しているという部分では、凄く差別化ができてていて良いなと思うんですが。
野間-
ありがとうございます。ただ、みなさんより経験も浅いですし、これからもっと課題とかやりたいことはいろいろ出てくるとは思うんですけど、まだちょっとわからないという。
草彅-
まだ30歳ですよね? その年齢なら、何をやっても大丈夫ですよ!
野間-
ちなみに、2人にとって会社って何ですか? 僕自身、他の人から質問されて自分なりに考えてみたんですが、みなさんはどう思っているのかなと。
松本-
僕の場合は、法人というもうひとつの人格だと思っていますね。だから、この何年かはなるべく自分自身とイコールにしないことに、難しいですが努めていて、自分も会社に食べさせてもらっているという意識を持っています。僕はあくまで会社のスタンス・方向を決める役割に過ぎなくて。なので、とにかく会社に投資することを考えるようにしています。それが全ての源泉になっているというか。
草彅-
いやぁ、正しい経営者ですね! 僕は完全に草彅洋平という人格の会社ですから!
野間-
私物化しているという意識があるから「俺がお金を出してるのに!」という考えになっちゃうんですよ(笑)。
松本-
本当に(笑)。せっかくなので、3人で会社作りましょうよ。狂犬ばっかり集まるような(笑)。
草彅-
それこそ、まさにうちの会社ですよ……。
——というわけで、普段は聞けない「ツラい!」けれどためになる、裏側のお話を聞くことができました。今回はお忙しい中、本当にありがとうございました!
Guest
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Tokyo Pistol Co., Ltd. / Yohei Kusanagi
株式会社東京ピストル 草彅 洋平
株式会社東京ピストル代表取締役、編集者 兼 AD。1976年、東京都生まれ。あらゆるネタに対応、きわめて高い打率で人の会話に出塁することからついたあだ名は「トークのイチロー」。2006年にクリエイティブカンパニー、株式会社東京ピストルを設立。ブランディングからプロモーション、プロデュース、広告から紙、ウェブ媒体の制作まで幅広い仕事を手がけている。 -
Letters, Inc. / Hiroki Noma
株式会社レターズ 野間 寛貴
2011年に利倉健太、大工原実里とWEBデザイン会社レターズを設立。同社代表。 twitter:@hirokinoma / @Letters_Inc -
Wab Design INC. / Tatsuhiko Matsumoto
ワヴデザイン株式会社 松本 龍彦
Wab Design INC./ワヴデザイン株式会社は、プロモーション・ブランディングを中心に、ウェブ、アプリ、プリンティング、ムービーの制作を手掛けるデザインスタジオです。様々なプロジェクトを立ち上げ、新たな価値観の創造に挑戦しています。主な仕事に1LDK、CA4LA、shu uemura、渋谷VISIONなど。アジア太平洋広告祭、ニューヨークフェスティバル、釜山広告祭、コードアワード、広告電通賞グランプリなど受賞。最近、3つ目の事務所を借りました。事務所はすべて代々木公園近く。 -
SUU BAR
(店舗提供)
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by Monstarlab Design Journal
Monstarlab Design Journal 編集部です。 モンスターラボデザインチームのデザインナレッジとカルチャーを発信していきます。
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Overview
×- 社名
- 株式会社A.C.O.
- 設立
- 2000年12月
- 資本金
- 10,000,000円
- 代表者
- 代表取締役 長田 寛司
- 所在地
- 〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-1-39恵比寿プライムスクエアタワー6F